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「中指と薬指、2本を同時切断」 アメリカで大工が突然事故にあい、病院に運びこまれた。 「中指のくっつけ代は700万円、薬指は140万円です。どうしますか」 患者が保険未加入者であり、全額自己負担となるため、病院側は無情の決断をせまる。 「薬指だけお願いします」 こんなショッキングなシーンで始まる映画「シッコ」がいま大変話題を広げている。 アメリカの医療は、技術的には世界をリードする立場にあるものの、保険制度に関しては四苦八苦状態。公的部分は25%にすぎず、民間が60%。残りの15%は、民間の高額保険料を払えない無保険者であり、その数4700万人も。総保険医療費が世界139位という特異な状況にある。 市場原理主義により、利益を最優先に考える民間保険会社の運営は、当然、患者、時には病院や医師を巻きこんで、さまざまな軋轢を生みだしている。 ここで社会問題の硬派が登場。かって銃問題やイラク問題で大きな話題を呼んだ映画監督ムーア氏は、制作開始に当って入念に準備、自らのウェブサイトを通じて、さまざまな質問を投げかけた。 「保険会社とトラブッたことは」 「理不尽な悲しみの経験は」てな具合に。反響はすさまじかった。 映画は公的保険が整備されているカナダ、イギリス、フランス、キューバの実情を紹介している。特に、アメリカと対極する社会主義国キューバに患者をつれていくシーンは、まさにクライマックス。十分満足した患者の笑顔が皮肉タップリに紹介される。 こうして今まさに、医療保険の改革をテーマに、来年の大統領選挙の論戦が白熱化している。日本の政界にも当然大きなインパクトを与えているし、医師会に対しても波紋が広がっている。「日医ニュース」には、各地医師会単位で自主上映会の開催方法も紹介された。こうした活動を通じ、医師患者間で時には議論し合い保険制度で理解が深まるのは大変結構なことである。 日本の医療界も問題は山積している。かっては医者叩きが目立ったメディアも、最近は擁護の意見がだいぶ見られるようになってきた。 一部にアメリカの市場原理の考え方導入を支持する強い意見が見られるが、その進め方は十分慎重に検討しなければいけない。保険を民間にまかせるアメリカ方式が如何に厳しいものになるか。現在の国民皆保険制度が如何に優れ、堅持すべきものか、あらためて認識させられる。
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