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文科省は、2012年に全国の小中高校で起きた体罰件数が6721件と最終報告した。その中で特に衝撃的だったのは、大阪・桜宮高の体罰自殺問題であり、全国に大きな波紋、関心を広げた。 全学校の1割を超える4152校で体罰が確認され、被害者総数は1万4208人に及んだ。 学校教育法には「懲戒を加えることはできる。ただし、体罰を加えることはできない」と明確に示されている。 これは昭和22年に制定されたものだが、当時のアメリカやイギリスには、まだ学校体罰が残っていた時代だから、この問題に関して日本は実に進歩的であったことが伺える。だが、現場はそれについてこれなかった。 児童・生徒を導くのに、叱るのは懲戒にとどめ体罰にならないよう心がけなければならないのだが、現場では大変苦労があるようで、実際、体罰を巡る裁判が多数発生している。 過去の裁判について、そのいくつかを紹介しよう。 まずは、小2児童に対し、教師が胸ぐらをつかんで壁に押し付け、強い口調で「もうすんなよ」と叱った行為。これを知った母親が体罰だとして訴訟提起した。高裁では有罪判決で20万円の損害賠償命令となったが、最高裁では、これが覆り無罪となった。 「教師にやや穏当を欠く部分はあったが、児童に対して行うことが許される教育的指導の範囲を逸脱するものではない」と判断されたのである。 体罰に対する定義は、裁判例では実にあいまいで「体罰とは、懲戒権の範囲を超えて、生徒に対して肉体的苦痛を与えることをいう」あとは社会通念で決するとしている。 次は、高2女子陸上部員。しばしば殴打ややりで頭部をたたくなどの暴行事例。「もう練習させない」と怒鳴りつけた翌日に生徒は自殺した。県立校では、国家賠償法が適用され暴行慰謝料300万円が支払われたが、教員個人の責任追及はできない規定があり、体罰と自殺との因果関係は極めて厳格で不問に付されている。 次も、自殺にまで進展した小6児童の痛ましい事件。裁判所の判断は「教員が切れた結果、体罰とし暴行、頭部殴打、往復ビンタに及び自殺につながった」というもの。最近の子どもは弱いから、この程度の暴行でも自殺につながることが、教師は予見できただろうとみられたものである。 体罰は委縮問題も含めた論議が必要であり、その舵取りは実に難しい。
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