メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
風を感じ楽しくリハビリ
 
   もう20年以上も前のことだが、出腹対策で楽しんでいたサイクリングで、細い下り坂に挑戦、みごとに転倒、左右の手指を1本ずつ骨折したことがある。
 急性期を過ぎてやれやれと思ったのも束の間、リハビリの段階になって強烈な痛みを経験することになった。これでもかこれでもかと患部の曲がりを強引に伸ばそうとする。まるで拷問そのもの。
 有名アスリートたちの体験したリハビリにおいても、痛くていたくて一時は現役復帰を断念するほどつらかったと語っている。
 こうして、リハビリと聞くと、即疼痛のつらさを連想するが、最近「風を感じる楽しいリハビリ」と報告する珍しい論文に出会った。
 片麻痺状態の脳卒中患者のリハビリは、通常、平行棒につかまって歩行訓練を行うが、途中疲れた場合、数メートル先の休憩場所まで頑張って移動しなければならない。
 今回新しく紹介されているリハビリ方法は、特製の足こぎ車いすを利用する。健常な足の方でペダルを軽く踏みこむが、この時同時に麻痺側の足の関節も動くのが期待する効果につながる。
 杖歩行で足首や膝関節の動きが全く見られない患者が、反動ではなく、明らかにリハビリ効果につながる動きが見てとれるのだ。
 膝の屈伸運動では見られなかった麻痺側の筋電図の変化が確認され筋肉が収縮している。
 こうして強制的に麻痺側を動かすことで、その刺激が脳に伝わり賦活化、新しい神経回路の形成が促される。
 麻痺側の足が動くことで、希望をもってリハビリに取り組む気持になれるのは極めて大切なことで、重度の片麻痺状態の脳卒中患者でも明らかな改善がみられている。
 患者が楽しいと感じ、リハビリに前向きに取り組め、ペダルをこぐことで「風を感じられる」なんて評価がでることは、これまでに1度もなかったことである。
 このリハビリ用「足こぎ車イス」は、製品名を「プロファンド」といい、東北大の半田教授が開発したもの。介護保険を利用すれば月1500円程度でレンタルも可能だ。
 将来像として、プロジェクターに投影した地図や景色を利用した足こぎ車イス用のリハビリプログラムの開発が進んでいる。あたかも空を飛んでいるかのような感覚が得られるというから、リハビリも大きく様変わりしたものだ。

(2015年10月9日掲載)
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