メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
医師以外の医療行為
 
   医療行為は、医師法によって原則医師にしか許されない特権として規定されている。
 それでも、医療及び介護の現場では、看護職、或いは介護職の者が、医師の手が足りないため、やむなく医療行為に踏み込むことがしばしば発生し、トラブルに発展することが少なくない。
 高齢者激増のさ中、厚労省は「たんの吸引」などごく一部の医療を「やむを得ない措置」として、特例で介護職に認めたが根本的な解決にはほど遠い。
 医療行為の必要度は極めて多く、これを支える医師のパワー不足は歴然としている。急遽医科大学の定員増を策定したが、医療行為の当面の実践的・効率的処理能力アップは緊急を要する。
 そんな中、アメリカで大成功しているユニークなシステムが大変興味深い。「フィジシャン・アシスタント」という医師補佐職の存在である。
 あくまでも医師ではないが、なんと医療行為の8割方もカバー可能である。とにかく、コメディカルの資格であり、専門の育成学校で2年ないし2年半のカリキュラム履行で、国試により州免許を取得する。
 アメリカとて医師不足状態にかわりはないが、このアシスタントの存在は、医療現場を救う絶対不可欠の位置付けにあり、全米で約7万人が大活躍している。
 短期的に医師不足を解消する方策としてすこぶる実際的であり、日本でがぜん注目を浴びだしたのも当然であろう。イギリスでは既に制度化されており、カナダ、オーストラリアでも近く制度化実現の状況にあるという。
 平均年収も約860万円(円換算)とまずまずで、中には約1800万円の猛者もいてアメリカ国内では、かなりの人気職となっている。
 フィジシャン・アシスタントは、約半世紀前医師不足が懸念された時期に誕生した。ベトナム戦争から帰還した衛生兵を再教育したのがその起源である。
 現在、日本の医師の勤務ぶりをみると、医師本来の業務以外のムダがかなり見受けられる。国立病院機構の理事長は「他職務が代替できる医師の業務は40%ある」とまで断言している。
 効率的に仕事配分を工夫すれば、医師の激務はかなり緩和されるはず。それにアメリカのユニークなアシスタントシステムを導入できれば、医師パワー短期決戦のためにかなり有力な手段となりうる。

(2009年8月28日掲載)
前後の医言放大
認知症にみる特異な素振り
(2009年9月11日掲載)
◆医師以外の医療行為
(2009年8月28日掲載)
無人兵器とカプセル内視鏡
(2009年8月7日掲載)