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2012年4月、新学習指導要領の完全実施により、武道とダンスが、男女共必修となった。武道では、全中学のおおよそ3分の2が柔道を選択する予定と、文科省調査により伝えられている。 そんな矢先、柔道授業中、頭や背中を強打し脳脊髄液減少症を起こすという事故が発生、新聞が大きく報じた(2012年10月)。当然のこと、社会的に柔道授業化の安全性に対する不安が高まっている。 これまでの柔道による死亡事故数を調べてみると、2009年以前の27年間で110件発生している(日本スポーツ振興センター)。こうしたデータが、柔道は死亡発生頻度が高く、これを必修化するのは危険すぎないか、という不安、混乱につながっている。 これに対し文科省は、これまでの事故は中学生については1件のみで、しかもその直接の死因は、心臓疾患によるものであり、その他を精査してみても、柔道を危険と決めつけることはできないと説明している。 必修化により、否応なしに柔道を新しく経験する生徒の絶対数は増える一方であり、事故発生頻度急増のリスクは極めて高い。今後どのような展開をみせるか、当面は注意深く見守るしかない。 ただ、過剰な不安感が徒らに蔓延することは回避すべきであり、考えられる限りの事故発生防止に努め、生徒の体力向上に役立てなければならない。 柔道はもちろんのこと、ボクシング、ラグビー、アメリカンフットボールなどは、コンタクトスポーツと呼ばれるもので、これらはすべて頭部外傷による脳震盪や急性硬膜下血腫のリスクが存在する。 頭部が大きな衝撃を受けると、頭蓋骨と脳のずれにより静脈が破断し、出血をきたす。予後が悪く、死亡率は55%にも及ぶ。 脳への外力が1回目は軽微であっても、2回目ははるかに重篤化することが知られており、セカンド・インパクト・シンドロームと称し、十分な警戒が肝要。 現実問題、我が国では年間4人の割合で柔道による死亡事故が発生している。 柔道連盟に属するスポーツドクターは、ほとんどが整形外科医であるが、コンタクトスポーツでは、脳神経外科医の視点も大変重要であり、その適切な判断で不幸な転帰を免れるケースもでてこよう。 また、指導者への医学知識の啓発は必須であり、諸外国に見られるようなライセンス制度導入を早急に実現すべきであろう。
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