メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
男性が原因の不妊率は?
 
   その昔“子無きは去る”などといって、結婚後子作りに励んでも、なかなか妊娠しない女房は「石女」といわれ離縁されることがあった。不妊の原因を一方的に女性側に押し付けたのだ。
 だが、医学の進歩は、男性側にも少なからず原因のあることを明らかにし、現在ではほぼ五分五分、痛み分けの状況にある。
 代表的な報告を例にあげる。WHOが実施した約10年前の調査では、不妊原因が女性のみのケースは41%、男女共が24%、男性のみが24%とまとめられ、原因の48%が男性にあると結論づけられた。男性側の原因内容は、主に無精子症、乏精子症、精子無力症等、至極もっともと思われる項目があげられている。
 日本の学会規定では、妊娠を希望した性生活が、1年間経過しても妊娠しない場合を「不妊」と定義しているが――ちなみにアメリカは2年間――なんと、それに当てはまるカップルが10組につき1組はいるというから意外と高率だ。
 一方で、いつの時代もハイティーンカップルがやすやすと妊娠・出産を果たしたりしているが、昨今の晩婚ばやりでは、そんな簡単なもんじゃありませんよ、とばかりに、大いに苦戦をしいられている。
 最近ヨーロッパで開催された「ヒト生殖・胎生学会」によると、「男性年齢が35才を超えると、妊娠率が低下、流産リスクが増大する」ということである。男性が加齢と共に精子数が減り、質も劣化することは、既に明らかにされていた。だが、今回35才を一つの区切りとして、精子DNAの損傷等による妊娠率の低下を、科学的根拠をもとに明確に示したのは初めてのことである。
 こうしたケースでは、損傷精子を避けて、最適な精子が事前に選択されるよう、「顕微受精」することが勧められる。
 最新の医学研究では、不妊治療・生殖補助医療の技術分野に於いても、極めて大きな進展が得られている。
 現在は、体外受精児が全出産の60人中1人を占める状況にある。もちろん30年前には影も形もなかった特別な存在である。
 全カップルの1割もが妊娠できないで悩んでいる現況を鑑みると、不妊治療技術にはもっともっと積極的に頼ってもよいのではと思われる。
 加えて、国や自治体からは不妊治療助成金も支給されている。ある調査では、カップルの半分以上が、この制度のあることを知らない。諦めないで、妊娠成功に向けてチャレンジし続けて欲しいものである。今や石女などとは誰も言わない。

(2009年2月13日掲載)
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(2009年2月27日掲載)
◆男性が原因の不妊率は?
(2009年2月13日掲載)
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(2009年1月23日掲載)