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戦後の日本は、欧米から多くの科学的利点を導入し、立派に立ち直ることができた。だが、こと健康面では決して歓迎的であったとはいえない。“高脂肪食”と“運動不足”という欧米化が、それまでの日本人に悪影響を与えたことは紛れもない事実だ。 1980年から2000年の20年間に、肥満者は2倍に増大した。 肥満体も高度に進むと、ついには手術に頼らざるを得なくなるが、我が国でも年間20例程度実施されており、今後も増加が見込まれている。 一方、さすがに本家欧米を中心とする世界レベルでは、手術数は年間約30万例を数え る。肥満大国アメリカでは、肥満の治療といえば手術が第一選択という状況にあるからだ。 それでも基本的な適応条件は、BMI40以上と規制されている。なお、BMIが35以上でも、重症の肥満関連健康障害があれば手術は適応となる。 手術の効果は、さすがに他の肥満に対する治療法と異なり、早期に確実に発揮される。2万例余の治療成績によると、肥満合併症である糖尿病や脂質異常症、更には高血圧、睡眠時無呼吸症等に高度な改善が認められている。 手術は専ら腹腔鏡下、内視鏡下で行われるが、要は、消化吸収力を抑えるか、摂取する量を抑えるかを目的とした術式が施される。 肥満手術の例数がまだ少ない日本では「胃縫縮術」が保険適応となっているだけだが、食事量は大幅に減退し、特に油っこいものはまるで受け付けなくなる。 他の術式としては、胃内に生食水入りの風船を留置する「内視鏡的胃内バルーン留置術」があり、手術時間が平均13分間ですむのが大きな特長である。 更には、胃上部にバンドを巻きつける「調節性胃バンディング術」がある。手術時間は約2時間かかる。 こうした手術によると高い治療効果は得られるが、バルーンが抜去されたあとに、時として体重再上昇の心配もなくはない。また、食生活等を含めた行動療法等細かいフォローアップは絶対必要要件であり、そのため原則として精神科疾患患者は適応外となっている。 アメリカは肥満を国家課題として取り上げ、さまざまな対策を実施中であるが、イギリスも同様、すこぶる深刻な肥満問題を抱えている。つまり、現在の子どもが、もし肥満に関する教育を受けずに成長したとすると、40年後に全体の90%が過体重なり肥満となり、更には重大な疾患に罹患するという推測値がでているのである。国民総病人化により歴史ある国家の滅亡も時間の問題になりかねない。
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