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昨年末開催された日本外科感染症学会で、年間1500件もの手術をこなすある基幹病院が、大腸の緊急手術において約35%もの術後感染を発生させていると発表した。十分準備のできた待機手術においても約10%の感染が起きている。 技術進化の著しい近代医学環境の中にあって、当然練りにねった極上の感染予防ガイドラインに沿って、厳密に無菌的に手術が実施されているはずであるが、尚まだまだ思うようにいかない現実の厳しさに、なんとも釈然としないもどかしさを感じる。 患者の出血量が多いとか、肥満体であるとか、或いは手術時間が長引いたとかの諸事情が重なると、感染リスクが高くなることはよく知られていることではある。 こうした状況の中、昨年、抗菌作用のある特殊物質でコーティングした抗菌縫合糸が新発売された。早速、この地方病院は、これを採用し、みごと大幅に改善効果をあげることに成功した。 特に感染率の高かった緊急手術では、抗菌縫合糸と旧縫合糸との2群間比較において、術後感染発生率は、17%と38%の大差がでた。 また、待機手術においても、5%と12%と明らかに効果の違いが証明された。 術後感染は、当然医療費の余計な出費につながる。例えば、胆のう・膵臓手術の場合では、入院が平均15日間も長引くし、経費も平均68万円余分にかかっていた。 抗菌縫合糸の材料代は、1例当たり平均1300円程度と全くとるに足らない金額。 アメリカでは03年から、ヨーロッパでも04年から大々的に使用されだしているというのに、日本での発売が6年も遅れたのは、国際交流華やかな時代に、まことに残念。 新しい糸の別の話題として、最近ドイツ外科学会が、クモの吐きだす糸について、驚くべき医学特性のあることを発表した。 人間の切断或いは損傷を受けた神経の再生に実によく適合するという。 抗菌作用もあり、感染に強いのもはなはだ都合がよい。 外国で具体的な臨床テストが繰り返されているが、良いと分かれば、日本でも早急に実用化されて欲しいものである。
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