メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
愛らしきパンダのすごい糞力
 
   冬は体調を崩しやすく、実際、死亡率が最も高くなる季節である。体の冷え、イコール免疫低下が、その根本原因とされる。
 我々の体の中で、免疫に関わる最高最大の器官は腸である。約1000種100兆個の腸内細菌が、免疫機構に携わり、体全体の多くの疾患に関与し、メタボさえその1つに数えられている。
 腸内の善玉菌の存在価値は極めて重要で、まずは、赤ちゃんが産道を通り抜ける際、母親の善玉菌を摂り込み免疫力を得る。だが、あいにく帝王切開ということになると、特に未熟児では、そのチャンスがなく感染症にかかりやすい。
 また、高齢者においても、善玉菌の存在は大きく、その積極的な投与により、感染症の罹患率が明らかに低減する。
 こうして、21世紀は、善玉という菌で、病原性のある菌を制することが、予防医学の根源になると期待されている。
 こんなストーリーは、医療を離れた世界でもみられる。どうにも手のつけられなかったナラズ者たちを手なずけて、日頃民衆を苦しめている悪漢たちを懲らしめる、こんな筋書きの映画が、国内外でいくつか放映されている。
 また、本来は、猛烈な毒物で強毒な菌が、一転難病治療の貴重薬に変身する例もある。
 悪が悪を制する、或いは毒をもって毒を制する、といった類の現象は、一般社会でもよくみられることである。
 菌の話題で、最近興味を呼んだのは、パンダのうんち。
 これまでも、微生物の力を借りては生ゴミを分解処理する方法は、いろいろと試されてきた。だが、ゴミ全体的な分解力としては今いち不満があった。
 そんな中、愛らしきパンダの糞にすばらしい分解力のあることが発見された。これまでの倍のスピードで、しかもゴミ全てを処理し、イヤな腐敗臭を一切残さない、という特殊能力のあることが解ったのだ。
 詳しく言うと、パンダの糞中に、グラム陽性有芽細胞桿菌という、熱に強い好気性高温菌があって、生ゴミ処理機の中を高温で素速く処理してしまうのである。
 つまり、消化しにくい笹の葉を主食とするパンダの力ここにあり、というわけで、研究者(北里大)の立派な着眼点をほめたい。
 ついでに言えば、最強の格闘王とされるキリンも木の葉を主食とする。パンダ同様、強力な分解能力のある糞を排泄しているのかも。

(2010年5月7日掲載)
前後の医言放大
術後感染を減らした糸
(2010年5月21日掲載)
◆愛らしきパンダのすごい糞力
(2010年5月7日掲載)
生んだが故の不愉快な症状
(2010年4月16日掲載)