メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
うつ病、子どもにも
 
   今、目の前に、みるからにけだるそうな子どもがいる。「どうした、元気出せよ!」と少々キツク叱咤激励する。
 普通にみられる光景だが、もし、この子が“うつ病”であったとしたら・・・。へたをしたら、自傷、自殺に追いこんでしまうかもしれない。
 ときたま、小学生の自殺が報じられたりして驚かされるが、その背景にはひょっとしてうつ病の存在が潜んでいたりして。
 うつ病は、現代の高度情報化社会にあって、さまざまなストレスに苛まれる、専らおとなの病気とみなされている。だが、最近は子どもの間にも厳然とその存在が指摘されるようになった。
 「何をしても楽しくない」「退屈」「おなかが痛い」「怖い夢ばかりみる」「眠れない」などが主な症状で、女子に多少多く小6頃から出始め、増加傾向が顕著であるという。
 こうした状況は、その原因がどうであれ、一つの病態であることを、我々周囲にいる人間はしっかり認識しなくてはならない。当人は決して怠けているわけでも、また性格的に弱いからなどと簡単にすませられないことを正しく理解し、対処しなくてはならない。
 対処法は自ずと決まってくる。いの一番に必要なことは、休息である。特に子どものうつ病に対しては、精神療法的アプローチが極めて重要とされる。辛い気持を徹底的に聞きだし、心から理解してあげることが大切。今日までの頑張りをほめてあげ、とりあえず休養をすすめ、必ず元通りに戻ることを保証してあげることだ。
 こうして、次は薬物療法についても考慮しなければならないケースも発生する。だが、最近こともあろうに、治療目的とは逆の作用が次々と現われ、関係者をあわてさせている。鎮めるべき情動不安定、自傷行為等を逆に増長させてしまうとんでもない作用で、有力薬品が使用しずらくなっているのは悲しい。
 現代社会では“速く、完璧に、一生懸命さ”などが求められるが、中にはそれに生身の人間として応じきれないケースも当然でてくる。西日本JRの脱線事故は、まさにそれを象徴した大惨事といえよう。
 うつ病は増加の一途を巡り、10年後には全病気中第2位になるだろうと予測されている。現在でも、6人に1人は一生に一度は罹っているとされるうつ病だが、このまま厳しい社会が続けば、いつ何時自分も罹患してしまう心の準備が必要かも。
 基本的には、社会、文化がスローダウンし余裕が欲しいところだが現実は無理。結局は、自分自身の生活スタイルを工夫しなければならない。自分に対しても、また子どもに対しても大切にリードする自分流の方法論を模索する生活が今日も続く。

(2006年9月1日掲載)
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