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「ヤシャブシ」という木は、人類にとって良くもあり、また悪くもある、大変存在感のある樹木である。崖崩れや山火事があると、そこにいち早く進出、深く根を降ろして、その後の崩壊の拡大をくい止めるのみならず、土地を肥沃化させる歓迎すべき力を備えている。 そのため、江戸時代は砂防目的に活用され、その後も道路や宅地の土留めなどに大いに用いられた。 こうしたメリットだけで収まってくれれば、それでメデタシメデタシとなるところだが、なかなかそう簡単にことは済まない。残念なことに、同時に大きなデメリットも持ち合わせているのだ。 ヤシャブシは、シラカバやハンノキと同じ科に属し、花粉を大量にまき散らす。そのため、毎春多くの花粉症患者を悩ますことになる。ここに、そのヤシャブシと近隣住民との長い闘いの物語がある。 舞台は大阪平野の北西部に切り開かれたニュータウン。開発時、大量のヤシャブシが植樹された。20年強の時を経て、1994年、そこに住むある主婦が鼻、のどのアレルギー様症状を訴え、手間どったが、ヤシャブシ花粉症と判明、第1号患者となった。 その背景として、大木に成長したヤシャブシの木立が無数の花をつけ、大量の花粉をまき散らしていることを確認。早速、専門医の指導で住民による本格的防御作戦が開始された。 住民調査で半分近くの人々がアレルギーを訴えていることが判明、さらに、ヤシャブシの親分格にあたるスギ花粉症の有病率を倍増させている、という事実も明らかにされた。 近隣園芸高校のアドバイスも求め、行政の了解のもと、ヤシャブシ伐採、除去が行われ、他の適正な樹木への転換が進められることとなった。 当然、花粉症患者の症状は劇的に改善された。ヤシャブシアレルギーの例は地域限定的であろうが、スギ、ヒノキの大量植樹は、負の側面を見落した国家的大失策として反省されている。 メリット部分だけを強く見過ぎて安直にことは進められない典型的な見本といえよう。原子力発電の行く末はいかに。
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