メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
温泉活用で医療費削減
 
   医療費の削減を目ざして、最近は75才以上の後期高齢者に大変なスポットライトが当てられている。一方、医療のあり方として、疾病治療より、発病しないための予防医学に極力重きをおくべきという考えが強まっている。
 そこで、元気老人の確立のために、日本が手軽に親しめる特有条件として、温泉の積極活用が考えられる。日本人はとにかく若い女性のファッションにまでなる大変な温泉好き。
 2万8千近い源泉があり、3千余の温泉地が国中にひしめく。結果、国民1人当たり年間1回は温泉に浸っている。だが、そのほとんどは短期観光型であり、医療行為を主目的とするヨーロッパの長期湯治型にはほど遠い。
 温泉医学とは、刺激療法として自律神経系、免疫系、内分泌系等を揺さぶり、歪んだ体のリズムを整える「総合生体調整作用」を利用するもの。ホルモン、血圧、心拍、血糖値等が、およそ7日の周期で変調しつつ正常化していく。なお、この7日生体リズムは、こよみ上の1週間とは全く無関係である。
 こうして、ヨーロッパの温泉療法は、7日を1単位に、体の反応に「慣れ」が生じる3、4週を1クールに行われる。そして、数か月後再訪するのが科学的システムの基本である。
 露天風呂が非常に好まれるが、内風呂に比べて明らかにα波の割合の多いことが証明されている。こうして、命の洗濯として、温泉の医学的裏付けが次々と明らかにされている。
 温泉に毎日浸っているとかぜを引かなくなる、ということがよく云われる。実際、温泉地の小学生の方が、都会の小学生よりもかぜの罹患率が明らかに低いことが確認されている。
 温泉入浴による免疫増強効果を、より明確化しようと、最近、「日本温泉気候物理医学会」が、積極的に健康増進データを公表、アピールしている。
 ある町ぐるみ40才以上の住民を3年間追跡調査し、温泉利用頻度が多いほど、死亡、骨折、脳卒中の発生頻度が低かったことを明らかにした。また、中高年女性対象の3か月間調査では、温泉入浴付き運動の方が、入浴のない運動のみより、体重減少、体力増強に優っていることを突きとめている。
 こうして、長野県の12の市町村を対象とした温泉活用調査会では、老人医療費の明らかな削減効果を認めた。
 竹下内閣の「ふるさと創世1億円事業」はいろいろ批判もあったが、温泉を掘削した自治体も多く、今その有効活用を最大限発揮するチャンスが巡ってきた。

(2007年6月22日掲載)
前後の医言放大
親友は優れた血圧安定剤
(2007年6月29日掲載)
◆温泉活用で医療費削減
(2007年6月22日掲載)
損して得とれ
(2007年5月18日掲載)