|
医療調査の規模の大きさでは、アメリカにはとても太刀打ちできるものではない。とは言え、この日本で、関節症の疫学調査としては世界最大規模の研究が、東大整形外科を中心にすすめられている。 腰痛、膝痛等で悩む、変形性関節症の有病率が、極めて多いお国柄として、国際級レベルの研究に初めて本格的に取り組むことになったのである。 死亡原因トップ3の常連である、脳卒中・心臓病・がんに対しては、それ相応の延命策も図れ、世界に冠たる長命を確保することができたが、“生活機能の低下”をもたらす疾患については大いに不満が残る。 骨関節、感覚機能、排尿機能、認知症等は、生命に直接かかわらない疾患であるが、生活を不便にする点ではこの上なく迷惑な存在である。その中で何といっても一番多く、最大の厄介者は骨関節疾患である。 平成10年の国民生活基礎調査でも、65才以上の高齢者が訴える症状の第1位が腰痛であり、第2位が手足の関節痛となっている。視力・聴力の衰えも大いなる高齢者トラブルに相違ないが、苦痛度からすると、これらをはるかに上回っている。 今回の大規模調査の中間結果でもまさに予想通り。関節症有病率は極めて高く、50才以上対象のX線所見により、男性では81%が腰痛(腰椎症)、女性でも75%が膝痛(膝関節症)で、毎日悩まされ続けていることが一層明確になった。 厚労省では、健康づくりと生活習慣病予防のため、「一に運動、二に食事……」という新標語を用意したが、50才以上の8割方の国民が腰や膝を痛くしてから“さあ動かせ”と叫んでも全く意味をなさない。 「健康日本21」の中間評価では、野菜の摂取不足、中年肥満、若い女性のやせ願望等でシッチャカメッチャカ。増加させるはずの歩行動も逆に減少している始末。 それでも仕事は毎日続けなければならない。仕事をしている時の姿勢によって引き起こされる腰への負担について興味深い研究をご紹介する。 通常何もしないで自然体で立っている時の腰椎への圧縮力(荷重)を100とすると、椅子に座った時は140となり、立って前かがみで仕事をする姿勢となると、更に150と負担が増す。 それに反して、仰向けに寝ている時は、25と激減。昼休み、あるいは休憩時、たとえわずかな時間であっても横になることが、いかに変形性関節症防止につながるか、認識を強く持つべきであろう。 こうした医学的データをもとに、日常的に早期から実践的予防策を構築できれば、厚労省の予防策も地についたものとなるのだが。
|