メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
親友は優れた血圧安定剤
 
   年をとると血管がもろくなり硬くもなって血圧は上昇ぎみになる。最近は、メタボリックシンドロームが一大人気化して、食生活の見直しや運動の励行が推奨され、男性ではウエストを85cm以下に抑えるよう指導される。
 だが、例えぜい肉でも一旦身についてしまうと、なかなか簡単には落としにくい。そんな肥満中高年の高血圧の方に格好な朗報が、最近、シカゴ大・心理学教室から発せられた。
 「高齢者が人付き合いを活発にして友人をつくることは、血圧を下げる点で減量や運動をするのと同様の効果が得られる」という。
 一般に、孤独老人は、そうでない一般老人より血圧が平均30ほど高いということであるが、健常者の120に対して150ということになると、これはもう疑いもなく第1ステージの高血圧患者。心筋梗塞、或いは脳卒中のリスクが一気に高まる。この30の差は思いのほか大きな健康上の意義をもたらすものであり、中高年ともなれば日常的に強く認識したい要素。
 年をとると親友が1人また1人と欠けていき、自分も病気がちで不自由になると否が応でも交流の機会は薄れていく。親友との語らいが30も血圧を下げ、しかも副作用の心配がない優れた薬剤だとすれば、なんとしてもその機会を失わないよう、或いは増やすよう努力しなければいけない。
 薬剤同様の働きをもつ、こうした親友はまさに「偽薬」であり「なぐさめ薬」である。不安、緊張、痛みなどに、特に効果が期待されるもので、その結果血圧が下がるというのは当然の成り行きである。
 こうしたプラセボが、かつて日本薬業史上に衝撃的インパクトを与えた事件がある。年間千数百億円もの売上げを示していた脳循環代謝改善薬がプラセボに有意差を立証できず認可取消しとなったものである。プラセボ効果の認識が一大評価され大変な話題となった。
 本来は薬理作用がないプラセボではあるが、実際、無視できないほどの疼痛緩和効果を発揮することが認められている。この脳内変化の模様が、最近MRI画像でドイツの研究者がしっかり突き止めたのである。
 被験者の一方の手の甲にプラセボ軟膏を、“強力な鎮痛剤”と称して塗り、両方の手にそれぞれレーザー光で疼痛刺激を与えた。プラセボ塗布の手の場合は、モルヒネ様物質エンドルフィンが分泌され、明らかな鎮痛効果が認められた。
 プラセボ効果は、総じてまじめ人間により大きな成果をもたらす。実薬であれプラセボであれ、医師の指示をしっかり守る患者は、およそ半分の死亡率ですんだ、との大規模研究報告もある。信じるものは救われるということである。

(2007年6月29日掲載)
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(2007年7月20日掲載)
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(2007年6月29日掲載)
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