|
女優、アンジェリーナ・ジョリー、愛称アンジーが、「予防的乳腺全摘手術」を受け、日本にも男女を問わず大きな反響を呼んだ。 まだがんを発症していない、健康なうちの乳房をまるごとバッサリ切り取った、スゴイナーと単純に思いこんでいる人が、私の周囲に何人かいたが、正しくは100%切除というわけではない。 乳房の下側を小さく切開し、乳腺組織をできるだけ取り除いた上で、人工乳房をインプラントとして使用する「乳房再建手術」という方法が具体的には行われたのである。 美容的な配慮をしたものでもあり、残された乳首の周辺などに乳腺組織がわずかながら残されているから、のちのちの乳がんの発生を完全に予防できたとはいえない。5%の危険が残されたということである。 完全な全摘にふみきれなかったのは、本人が女優であること、そして何より女性としてのアイデンティティから、完全には脱却できない女心があったからであろう。 それはまたパートナーである男性の心理への配慮にも大きく働いている。 乳がんで乳房を完全切除された際、女性の喪失感は大変なものであるが、同時にパートナーにも大打撃を与える。 その時、パートナーはどんな状態を示すか、実例として、愛妻の乳房がなくなった瞬間、夫はうつ病になったり、離婚することになったりしたケースが知られている。 月亭可朝の「嘆きのボイン」にもあるように、ボインは父ちゃんにとっても大切な存在なのである。 興味深いのは、乳房に向けたこうした心理は人間だけにみられる特例現象であるといい、オスがメスのオッパイにこだわるのは人間の男性だけだということである。 そもそも、人間以外で年がら年中、乳房がふくらんでいる動物は他には見当たらない。デズモンド・モリスという動物学者は、発情したメスザルの充血してふくらんだ性器の代用品が、目に止まりやすい人間の乳房であるという。 こうして、人間の乳房は、大きく美しければ美しいほどオスとメスとがつなぎ合う役目を果たしているのである。
|