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味覚の秋。日本古来の伝統食文化は鋭い感覚を発揮する。甘味、酸味、苦味、そして塩味と微妙濃淡を散りばめ、旬の食料に独特な味付けを演出する。 まさに、秋は食品文化の花開く芸術の季節。だが、この折角のチャンス到来にも淋しく傍観する不幸な人たちがいる。 お金がないからではない。不本意ながら、「味覚障害」に陥った人たちのことである。原因はたった一つに絞られるわけではないが、そこには「亜鉛不足」というミステリアスな問題が潜んでいる。 若者の間では、過度なダイエットや偏食が主力原因として知られ、急増しているという。一方、高齢者の間にもこの現象はみられ、脳障害や腎障害等の基礎疾患を有する場合や、種々の薬剤を服用している場合等で、食欲低下、亜鉛欠乏により、味覚障害を訴えるケースが増加しているという。 亜鉛の欠乏は、味覚障害を引き起こす重要な元素であり、そもそもは「必須微量元素」として、鉄、マンガン、ヨウ素、コバルトなどと並んで、極めて貴重な人体構成成分である。更に云えば、体内で重要な役割を発揮している3百種以上もの酵素を正常に活性化させるために、亜鉛はなくてはならない存在となっている。ヒトゲノム全遺伝子の約1割の蛋白質に亜鉛は関与しており、生体活性を高度に調節していることも判っている。 体内の総亜鉛量は、最大約2.5gで、その90%以上が骨格筋と骨に貯えられ有事に備える。 体内における亜鉛の存在意義は、イラン人の小児で初めて確かめられた。低身長、性腺機能低下症、貧血で苦しむ小児が、亜鉛吸収を阻害する食品を摂取していることを突き止め、その貴重な働きを見い出すことができたのである。 亜鉛をはじめ、諸金属元素については、これまでの成り行き上、マイナスイメージが先行する。「森永ヒ素ミルク事件」「イタイイタイ病」「水俣病」等の金属中毒や環境汚染の悪印象が極めて強いからである。 しかし、現在、「必須微量元素」としての機能の重要性を認識するにつけ、これらに対してポジティブなアプローチを積極的に心がけなければならない。 そして思う。自分がどんなにチッポケな存在であろうとも、少しは社会のお役にたっているんだぞ、といった自覚、自負心、気概は常に持ち続けていたいものだと。絶対、環境汚染因子なんかになってはならない。
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