メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
「十月十日」のミステリアス
 
   男ではどう逆立ちしてみたところで出来っこないこと、それは子作り。詳しく言えば妊娠であり出産である。それをほとんどの女性は平然とやり遂げてしまう。
 胎児がどうやって大きくなっていくか、腹の中の感触なんて、男にはまるでチンプンカンプン。案ずるより生むが易しなんて言うもののいざ出産となればそれ相当の苦しさに顔を歪めるが、男はただ便秘の何倍かでしかその苦痛を押し測る術はない。
 そんな重大イベントの中で、昔からどうにも解りにくいのが「十月十日」という妊娠期間を示す言葉。子供の頃からよく聞き慣れてはいるが、当事者の女性本人でも明確に説明ができない。その存在感は根強く、よくもまあ今日まで堂々と生き永らえてきたものだ。
 妊娠期間としては、当然男女間にH行為があり、それを基点に平均266日(38週)間というのが明らかとされているのに、十月十日の期間、つまり310日との間になんと44日ものギャップがあるのはどうしたことか。ちなみに外国では、妊娠月数は9か月満期とする考え方が用いられており極めて実際的である。聖ガブリエルが聖マリアに受胎告知したLady Dayが3月25日であり、キリスト生誕のクリスマスが12月25日であることからも妊娠期間は9か月ということにしっかり符合する。
 そもそも妊娠期間の考え方に、妊娠前の最終月経第1日から起算する方法があったりしてややこしくなる。わが国では従来、妊娠期間を月数で表すことが一般的であり、十等分して十か月を満期産とするが、28日を1か月と数えたとても、「十月十日」の十日は長すぎてどうにも説明がつかない。
 「十月十日」にまつわる笑い話がいくつかある。
 小学校の女性教師が産休を取りやすいように、春休み内に出産しようと計画的に受精したはよいが、医師から1か月半も早い出産予定日を告げられ愕然!となったはなし。
 また、10月10日の体育の日生まれの人の場合。親の仕込みが元旦に行われたなどと逆算され、まわりからからかわれた、というはなし。
 最近は超音波断層法が発達普及し、10週前後に胎児の頭部から臀部までの長さを測ることで妊娠期間を算出、それによって分娩予定日を正確にとらえることが可能となっている。実に科学的になったものである。
 さてめでたく妊娠し、出産予定日が決められたとしても、その通りドンビシャと生まれ出る赤ちゃんは、実際は20人に1人にしかすぎないという。世の中すべてそんなに予定通りうまいくもんじゃないということである。

(2005年8月5日掲載)
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(2005年8月19日掲載)
◆「十月十日」のミステリアス
(2005年8月5日掲載)
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(2005年7月29日掲載)