メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
生んだが故の不愉快な症状
 
   腰痛で苦しむ人が実に多い。椎間板ヘルニアによることがほとんどだが、それはヒトが二足歩行を始めたからだとされている。
 女性は、その上さらに“骨盤底への負担増大”が加わり、不愉快な苦しみを味わう。お産をすると、周囲の神経や筋肉等に一層のダメージとしてゆるみがひどくなる。
 それによる代表的な症状の1つに「腹圧性尿失禁」がある。咳やくしゃみ、そしてとんだりはねたりのちょっとした運動の拍子に、ついうっかり尿が漏れる。慎み深き大和撫子としては、他人にはそうそう知られたくない赤面的現象である。
 当然、スギ花粉症やカゼの副症状としても尿漏れがからんでくる。また、オムツ交換の介護時に、ついうっかり自らも尿漏れしてしまう笑えない症例報告もあるくらいだ。50才までに過半数近くの女性が経験するそうである。
 そしてもう1つは、膀胱や子宮が下がる「骨盤臓器脱」。風呂でしゃがんだ際、秘部の出口に突然硬いものが触って驚くとか。また、トイレでの排便で力んだ際、あとで紙でふこうとして初めて下垂に気付くことが多いという。
 膀胱瘤は“ピンポン玉”或いは今はやりのことば“ポニョ”などと表現されたりしている。また、子宮脱であれば“梅干し”と言ったりする。骨盤臓器脱は、昔は日本の農村では“なすび”とも呼ばれ、農作業や多産との関連で広く知られていた。
 これら2つの疾患は、女性特に経産婦としては宿命的疾患とみなされる。人知れず悩むその不愉快さは、高頻度に発現することもあり、QOL(生活の質)疾患として、中高年の最大級の厄介ごとであるといえよう。
 その上、それが命に直結しないこともあって「オバンがまた不満をもらしている」と、単なるヒステリー現象としかみてくれないことも頭にくるとか。
 医療サイドも、大学に「女性尿失禁外来」が設けられたりしたが、いかにも地味な活動。それでも06年にようやく「日本女性骨盤底医学会」が立ち上がり、さまざまな手術方式の開発もあって、今後は明るい展望もみえてきた。
 中高年女性の生活をつぶさに眺めてみると、花粉症やカゼはもちろんのこと、少々重いものを持ち運んだり、急に走ったりすることも日常茶飯事。それで離職等ということになるようでは社会的損失が実に大きい。
 貴重な短い人生、消極的になり過ぎ、生活の質を縮めてしまうことがあっては誠に残念。なんといっても、子どもを生み育て上げた女性には、積極的に人生を楽しむ権利が十分ある。

(2010年4月16日掲載)
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(2010年5月7日掲載)
◆生んだが故の不愉快な症状
(2010年4月16日掲載)
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(2010年4月2日掲載)