メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
再生医療臨床化世界をリード
 
   何の治療手段も持たない難病で苦しむ人々にとって、いま最大の関心事は何か。それは紛れもなくiPS細胞技術を利用した再生医療の臨床化が、広くすばやく具現化していくことであろう。
 そんな中、今春大変勇気づけられる発言があった。第29回日本医学会総会で、あの山中伸弥京大教授が「国の支援もあり、我が国のiPS細胞を用いた再生医療研究は、間違いなく世界のトップを走っている」と力強く語ったのである。臨床応用に向け、複数のプロジェクトが開発進行中で、特に慶大、京大、理研、大阪大の4施設が拠点Aとして、研究進捗状況が格別注目される。
 その1番手は既に公表されている理研からの「加齢黄斑変性」の取組み。世界初の臨床応用としてシート移植後6か月経過したが、心配された免疫拒絶反応や腫瘍化などの有害事象は見られていない。有効性については、網膜の厚み減少や新生血管の消失は確認されたが、網膜感度や視力の数値的な改善は認められていない。しかし、患者のQOLは改善しており、本人は「視野が明るく、白がはっきり白に見える」と話している。
 他の3拠点からは、臨床実施直前の計画が発表された。
 慶大からは「脊髄損傷」に対する他家細胞移植計画。京大からは「パーキンソン病」に対する自家細胞移植計画。そして大阪大からは「重症心不全」に対する細胞シート移植計画がそれぞれ発表された。
 重症心不全と聞けば、死因疾患名としてよく登場するもので、他人から心臓移植を受けるしか生きる道はなかった。だが現実は世界的なドナー不足状態。それが、いま再生医療で生き残りの突破口が開かれようとしている。
 既に心臓補助装置装着患者4例中2例で装置離脱に成功。未装着25例にも標準治療と同等の生命予後を実現している。
 臨床化研究は難病だけではない。理研では「脱毛症」の治療研究で毛髪再生に成功している。国内患者約3000万人で、その市場規模は約1兆円に達する。
 iPS細胞の樹立を世界で初めて山中氏が報告したのが2006年。わずか10年足らずで臨床応用の足がかりが次々と報告されている。
 だが悩める人々は極めて多く今かいまかと治療成功のチャンスを待ちこがれている。希望の光が1日でも早く光り輝くよう期待してやまない。

(2015年8月7日掲載)
前後の医言放大
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(2015年8月28日掲載)
◆再生医療臨床化世界をリード
(2015年8月7日掲載)
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(2015年7月24日掲載)