メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
腕力弱ければ命も短し
 
   筋力が低下することは、これまでも早期死亡や各種障害・疾病と強く関連付けられてはきたが、エビデンスとしては極めて薄弱であった。だが、最近大規模疫学調査結果が公表され注目されている。
 世界の主要17か国、約14万人を対象とした国際研究で、握力の弱い人は死亡リスクが高く、同時に、心筋梗塞や脳卒中リスクの高いことが判明した(カナダ、マックマスター大・レオング教授他ランセット誌報告)。
 今回の報告は意義が高く「加齢過程のマーカーとして握力は大変有用である」との評価が周囲の複数研究者から寄せられている。
 この結果を受けて、心筋梗塞や脳卒中に基づく死亡リスクの高い人を、単純な握力検査のみでスクリーニングできることは、迅速かつ簡便、低コスト面で極めて有用な道が拓けたといってよい。
 だが単純な握力と心筋梗塞などのリスクとの因果関係については全く不明であり、遅ればせながら低握力を向上すべく努力をしてもそれで死亡・心血管リスクが改善されるかどうかも、今後の研究次第ということである。
 だが、極めて参考となりうる研究論文がある。なよなよとしていかにも腕力の無さそうな男性を、世間では一般的に草食系男子と呼んでいるが、こうしたグループを対象に男性ホルモンのテストステロン値を測定したところ、総じて低度という現象が認められた。
 また、中高年に多い疾患に「加齢男性性腺機能低下(LOH)症候群」というのがあるが、やはりテストステロン値がかなり減少し、動脈硬化と深く関与、その他多くの生体機能を低下させ、結局は寿命短縮へとつながることが明らかにされている。
 さらには、東大老年病科では、テストステロンの低いグループは、高いグループより心筋梗塞に4倍もなりやすいことをつきとめている。男性ホルモンには血管を拡張、そして維持させる働きがあり、その分泌が減退すると動脈硬化が進行することもつきとめている。
 その他世界各地で行われている健康調査では、寿命の長い人のテストステロン値を測定すると、総じて高いことが判明している。こうして、男性ホルモンは男性をより男性らしく力強く見せるだけでなく、健康的で長寿を保証する重要な存在であることが明らかとなった。

(2016年2月12日掲載)
前後の医言放大
記憶された痛みは面倒
(2016年2月26日掲載)
◆腕力弱ければ命も短し
(2016年2月12日掲載)
男女交際を面倒がる高校生
(2016年1月29日掲載)