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日本は今、多老多死社会を迎えて、どこで看取ってもらえるか、大量の孤独死発生の心配が日増しに募っている。尊厳ある死に場所について大変難しい舵取りをせまられているのだ。 この問題については、もうお蔵入りしてもおかしくない古いデータでありながら、いまだによく用いられるグラフ「看取りの場所についての現状と将来設計(厚労省作成)」がある。 この推計が与える一番のポイントは、多くの行き場のない人が輩出してしまう重大危惧である。2030年をにらんで、仮に医療機関のベッドが現状のままだとすると、たとえ老人保健施設や特養老人ホームが2倍に増床し、併せて自宅死が1・5倍に増えたとしても、死に場所のない人が、なんと年間47万人も出現してしまうという驚きの推測である。 その死者の中には、当然多くの認知症患者が含まれ、一層問題の深刻さを増している。 というのも、第一線のプライマリーケア医の間に、認知症患者を敬遠する傾向が多く見られるという指摘があることだ。 若い時から面倒をみてもらっているかかりつけ医から、ある日突然「認知症は専門外だから診れません」とことわられることになったら・・・。行き場のなくなった患者或いは家族は全く途方にくれてしまう。 認知症を診なれない医師の真意としては、他の疾患のように検査値という具体的な指針がなく、病態管理しにくいということ。更には、診療に時間がかかり過ぎること、治癒が得にくくやりがいを感じにくいことなどなどとにかく気がのらない。 こうした認知症に極めて消極的な医療前線の雰囲気の中でも、アルツハイマー型を中心に、認知症と断定された患者数は、ここ15年間で4~5倍と急増している現実がある。 このギャップが埋まらないままでは、日本医療福祉社会はまさに空中分解をきたしかねない。厚労省は、20年までに精神病院への新規入院患者の在院日数の中央値を、現状の6か月から2か月に短縮する目標をかかげた。 つまり、これまで入院していた大量の認知症患者が、今後は外来に押し寄せることになる。 最近、在宅療養支援診療所が新設され、対応策の一つを期待されているが、現状届け出数ははるかに少なく、とても処理しきれる状況にない。
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