メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
記憶された痛みは面倒
 
   人間は誰しも一生のうちに何度も″痛み″を経験する。通常は、その都度何とか収まりをつけてはいるが、モタモタしていると、その痛みが脳にしっかり記憶されてしまって、のちのちまで面倒なことに。
 失恋の痛みも、いつまでもクヨクヨ思い悩んでいては、一生を棒に振ってしまう危険性が無きにしも非ずということだ。
 一旦強く記憶されたものが、簡単に消せなくなることは少なからずあり、何らかの痛みが発生した時には、素早く適切に処置し、妙に強く記憶されないよう気をつけるべきだ。
 極端に言えば、痛みを感じてから治療していたのでは手遅れのケースも少なくないという。例えば、術後疼痛対策として「先行鎮痛」処置という手段がある。臨床現場では既に実践されており、予防的鎮痛薬の投与が、術後の痛みを大幅に軽減させている。
 痛みといえば、その最たるものとして癌性疼痛があるが、末期状態になる前から、また感作が起き除痛が難しくなる前から、痛みに先手を打つ治療を始める必要性が極めて大切になってくる。
 また、非癌性疼痛の帯状疱疹後神経痛も極めて厄介な存在で、急性期からの治療がカギを握る。
 最近駅近に整骨院が2軒ほぼ同時に開設された。すぐそばに同業が2院もあるというのに。人ごとながら経営的な心配をしたが、何ということもない、両院共大繁盛なのである。高齢社会を反映して、足腰肩などに痛みのあるおとしよりが次々と押し寄せている。
 最近、慶應大・整形外科の調査した運動器慢性痛有症者の施設利用割合をみると、整体や整骨院、鍼灸などで治療を受ける人が全体の20%で、医療機関の19%を上回っている。
 なお、治療を受けないで売薬などで様子をみている人が55%もいた。つまり、整形外科に対する信頼度、満足度が思いの外低いということだ。
 そこで医療機関側のとるべき対応として、痛みへの早めの対応が重要視されだしている。
 例えば、10の痛みを5にするだけでも、患者満足度は大きく、早期積極除痛のメリットを強調する。
 一方、早めはやめに鎮痛剤を使用するのも大事だが、運動療法の効果も意外に大きい。周囲から励まされることで治ろうという気持ちが高まり、脳内のドーパミン分泌が刺激され鎮痛効果がもたらされるのだ。

(2016年2月26日掲載)
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