メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
ダイオウイカとヒヤリハット
 
   富山湾で網にかかったダイオウイカがスルメに加工され、観光市場で展示された。水揚げ時130キロもあったのが、僅か6キロにまで減量したそうな。
 この現象を、事故原因を探る作業に例え教訓にしているのが「リコール学の法則(内崎・畑村共著)」。干され縮まったスルメの姿から大海を優雅に泳ぐ巨大なイカを想像できるように、想像力を鍛えることだと説いている。
 最近発生した大型リコール事件といえば、タカタ製のエアバッグ。異常な破裂で死傷者まで出し、世界で2千万台もの自動車がリコールをせまられている。
 大事件に発展したこの最初の不具合発生は10年前のこと。この時、鋭い目をもって適切な対応に取り組めていたら、ここまで深刻な事態にまでは至らなかったであろう。
 こうした危険管理の考え方では、先輩格「ハインリッヒの法則」が有名。生命にからむ医療事故の未然防止のためによく利用される。
 この法則によると、1件の重大事故の背後には29件の軽微な事故があり、さらにその背後に300件のヒヤリハット事故がある。その小事故に留まることのできた事例の1つ1つを検討、原因を明らかにする作業が大切だ。
 昨年11月に開催された日本頭痛学会総会では「頭痛診療のヒヤリハット」が討議された。
 軽微な頭痛症状の背後に重大な基礎疾患が隠れていることを「羊の皮を被ったオオカミ頭痛」と称している。
 よくある片頭痛或いは群発頭痛の診断がくだり、簡便な治療をしていて、突然、くも膜
下出血や脳腫瘍、骨髄炎というオオカミが頭をもたげ、致命的な転帰に陥る場合がある。
 わが国に於けるくも膜下出血は、年間10万人当たり約23人が発症し、全死亡率は約40%にも及ぶ。
 ヒヤリハット段階で、それ以上の危険に至らずに済めばよいが、我々患者側にすればとにかく担当医師のスキルが全て。頭痛の性状、検査機器の所見を穴のあくほどしっかり確認してもらい、時には指導医、専門医との連携などで徹底したスキルアップを常に心がけて欲しいものである。
 学会では、脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血を見逃さないためのポイントを詳しく解説している。
 発生時の頭痛は実に激しく、生涯感じたことのない突然の頭痛は「雷鳴頭痛」と呼んでいるが、こうした典型的症状での受診率は8割程度に留まり、残りの2割が非典型的症状で発症する。
 こうした中、発症当日にくも膜下出血と診断されず、その中の35%が再破裂している現実も明らかにされている。

(2015年4月3日掲載)
前後の医言放大
性同一性障害の性転換手術
(2015年4月24日掲載)
◆ダイオウイカとヒヤリハット
(2015年4月3日掲載)
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(2015年3月27日掲載)