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どんなに優れた医師であっても、疾患そのものに自らが罹り苦労してみないことには、その疾患のことを完全に理解できたとはいえまい。 医師個人の闘病体験を、その後の自分の医療現場で生かしてくれることは、患者にとっては大変幸せなことである。更に、その折角の専門的に深く理解できた疾患の真髄を、仲間に伝達し共有してもらえれば、その効果は一層大きく拡がる。 こうした体験は、医師に限らず医療に関わる人であれば、大なり小なり必ずや患者にとってより良い治療効果につながるはずである。 最近、耳鼻科医や看護師の仲間による自らの闘病体験を発表し合い研究する会が、それぞれ沖縄で開催された。 第21回日本耳科学会では、ずばり「耳科疾患の患者となって分かったこと」というシンポジウム。4人の耳鼻科医師が演者となり、自らの治療経験を披露した。辛い体験から得られた貴重な知恵と教訓が聴衆である医師仲間に忌憚なく伝えられた。 高知大K氏からは、幼少期からの小耳症及び外耳道閉鎖症患者としての苦労話が。患者が成人に達した時点で、手術の選択肢を正しく提供することが重要であることを強調した。 なお、エピソードとして、同じ疾患を持つ患児の母親が、担当医も同病であることが解った時「表情がパッと明るくなった」ことを披露、こんな病を持っていても医者になれるという励みを与えられた、という。 大阪の開業医H氏からは、思春期から始まった耳管開放の経験を、さまざまな対処法と共に紹介された。医学生となって初めて自らの疾患内容が理解できたという。 東北大のT氏の場合も、前庭神経鞘腫と、疾患は異なるものの、医学生の時に初めて自らの罹患内容を理解できたという。 一方、看護師については、がんを患った経験のある看護師11人の集りで「サバイバーナースの会(ピアナース)」の研修会が。 自分たちの折角の体験を発表し合い、患者支援に生かそうとする主旨である。「自らががんになって、初めて患者と医療者の間にすれ違いや遠慮があり、忙しそうな医師に聞きたいことが、なかなか聞きにくいことに気付いた」という。 こうした患者の気持や真意を、医療者側が手早く、正しく汲みとれるようになれば、理想的な全人的医療がスムーズに推進できるはずである。
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