メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
コンビニ受診
 
   夜間ブラリ訪れて、手軽に買い物ができる、そんなコンビニ利用客のご気楽性と何ら変らない形で、病院なり医師なり医療者が右に左にふりまわされる。これを称して「コンビニ受診」と言う。
 消防庁によれば、平成18年の年間救急搬送人員は490万人にのぼり、最近10年間で1・5倍に増加したという。問題はその中味にある。なんと過半数(52%)は救急搬送の必要のない軽症患者であり、医療現場に大きな負担となっている。
 全国各地の病院で勃発している小児科医引き上げが、まさにその悪影響の及んだ実例である。これで結果的に困るのは子育て中の母親である。
 そこで心ある母親達が動いた。引き上げられてからでは遅い!有志が一致団結して知恵を出し合い、この窮地を救った一先駆的成功例が地方で実現、注目を集めている。兵庫県の県立病院を舞台にくり広げられた活動はユニークには違いないが、大変理にかなう内容に富んでいる。
 窮状を訴えた小児科医の発信を契機に、危機感を募らせた母親たちの有志が「小児科を守る会」をまず結成。活動の最大のスローガンに揚げたのは“コンビニ受診”の自粛であった。結果、小児科医は増員、5人体制という、思ってもみない大成果をおさめた。
 この地道な活動は、舛添厚労大臣にまで響いた。「これこそが地域医療の崩壊をくいとめる住民からの大きな運動。各地に広がるようがんばりたい」とコメントしている。
 忘れてならないのは、受診自粛の一方で考えておくべき適切な受診の有り方についての啓蒙である。受診抑制が、行き過ぎて、本来搬送すべき患者に問題があってはならない。
 そこで守る会は“適切な受診方法”を整備した。子供たちによくみられる症状毎に受診の必要性をまとめ、母親全般に明示したのである。
 例えばよくある子供の“急な発熱”。熱は何度か?赤ちゃんは生後何か月か?普段と様子の違いは?など。これらを順にたどっていくと、緊急性が自ずと判断される仕組み。まさに患者教育が自然と積み重ねられる生きた教科書である。
 救急医療の危機は小児科だけに限らない。今回のリスク回避のために工夫された新システムは救急医療を救う手立てとして十分参考となる。

(2009年2月27日掲載)
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(2009年2月27日掲載)
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