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人を笑わせ、考えさせる研究に対して「イグ・ノーベル賞」という表彰制度がある。 真面目さの中に楽しさを交えた一風変わったところが大変面白い。2013年は、帝京大血管外科の新見准教授が「音楽で延命」という、研究で受賞を果した。 心臓移植後のマウスは、通常、免疫の拒絶反応で、8日前後で亡くなる。だが、移植直後からオペラ「椿姫」を聴かせ続けたところ、なんと平均40日間も延命できた。 医療界では、気の持ち様で病状の変わることが、既成の事実として知られているが、この経験則をユニークな方法で検証したのだ。 マウスに限らず、動物全般に対する音楽効果については、例えば、鶏舎に於けるBGMによって卵をたくさん生むようになったとか、牛舎では乳量が増大したとかの成績が知られている。 これら動物に対して聞かせた音楽の種類は、人間が聴いて一応静かな安心感の得られるものを選んでいるが、人間の患者に対しては、一人ひとり好みの音楽を個別に緻密に聞きだすことが可能である。 それをヘッドホンで好きなだけ聞かせ続けたらどうなる?オハイオ州立大看護教室では、人工呼吸状態にある重症患者に対して実験、鎮静薬の使用量を、通常ケア群に比べて38%も低減できたという。 なお、対象患者はミネソタ州内5病院に於ける12ICU管理下にある373名が研究対象とされ、音楽は1日平均80分間聞いている。 人工呼吸器使用の患者は、鎮静・鎮痛薬を長期投与されることが多く、日々不安感をもってベット上に横たわり続ける。 だが、そんな辛い生活を一変、好きな音楽の調べを好きな時に好きなだけ堪能できるようになると、不安がみるみる軽減、リラックス効果として、薬の投与頻度・用量を以前よりも4割減らせることに成功したのである。 音楽は基本的に病態にあるものを癒し、励ますものであるが、動物が適当に与えられた音楽を一方的に聞かせられる状況と異なり、人間の場合は、患者自身が自分の意志で適切に積極的に関わりながら闘病し、結果、不安を軽減させたことは非常に意義深いことである。
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