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何だか病気にかかったかもしれない。からだの異常兆候の中で、最も早く感じ、そして最も多いものは“痛み”である。 疼痛は、何よりも不愉快な症状であり、そこからの脱却は、まさに医療の原点。もし、疼痛解除にモタモタするような医者がいたらそれこそヤブのそしりは免れない。 とは言っても、ペインクリニックの現状は、どんな患者をも十分満足させるほど甘くはない。中でも、高齢社会を反映した特殊な痛みへの対処は、実に悩ましく近代医療に厳然とたちはだかる。 「帯状疱疹」或いは「脊椎手術」が急増中だが、厄介なのは、一旦治癒してケリがついたはずの昔の痛みがまたぞろ襲ってくるというミステリアスな現象。以前の治療中に経験した痛みが、脳内にしっかり記憶され、片や「帯状疱疹後神経痛」として、また一方は、「脊椎術後疼痛症候群」として、しつこくいたぶりまくるのである。 一般社会でも、例えば失恋のような一度体験した辛い心の痛みが、何かの折に思い起こされることがある。電車大事故の辛い思いもそうそう簡単に忘れ去ることはできない。 高齢者を襲う慢性疼痛の除去についても然り。だが、なんとかしないわけにもいかず、一つ有力な治療法として「刺激鎮痛法」が工夫され大変興味深い。大脳皮質を刺激する電気痙攣療法であり、その際得られる健忘効果が、痛かった昔の記憶を忘れさせ、疼痛緩和をもたらすという仕組みである。 これまで痛みに対しては、欧米人に比べ日本人はガマン強いと言われていたが、最近はがん性疼痛に対するWHOの指導もあって、強い鎮痛剤も積極的に使用するようになってきた。 痛みは、他人にはゼロであっても、患者本人には100%感じる辛いもの。本人にしか分からないものであり、どんな種類の疼痛でもしっかり除去できる治療法が確立して欲しい。 今、疼痛ゼロの状態でも、いつなん時100%襲われる身になるかもしれないのだから。
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