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産婦人科医は訴えられることが多く、割に合わないということで、新卒医師が敬遠し社会問題化した。また、多忙を極める救急部門にしても、同様の悩みが続いている。 日本医師会による実態調査(平成20年)で、婦人科は、その時点で2・9倍の医師が必要という結果が出、救急でも2・1倍と現状倍増の必要性が明らかにされた。需要の多さに対し、あまりにも供給の少なさが問題視されている。 この調査で、もっと驚くべき事実として、病理医のあまりにも手薄い実態が表面化した。一般にはなじみの薄い裏方の仕事だが、医療における重要性は極めて大きい。 アメリカと比較してみると、人口当たりの医師数がなんと約5分の1という貧弱さ。如何に日本では軽視されている存在か解る。 日本の病理医は、現在過酷な労働環境にある救急、産婦人科、小児科各課にひけをとらぬ、否それ以上に、まさに一服の余裕も与えられない過重労働を強いられている。 目立たないとはいえ、その仕事は必要不可欠で、一番端的で解りやすい例といえば、腫瘍組織が良性か悪性か、つまり、がんかどうかを見極める重い仕事を担っている。患者から採取した全面病変組織を慎重に、正確に見極めつつ治療につなげていくわけだから、その立場はないがしろにできない。従って、その戦力が大不足状態にあるということは、極めて由々しき問題だと言わざるを得ない。 全国の一般病院は、約7600施設を数えるが、在籍病理医数はわずか2000名弱。病理診断が必須ながん診療連携拠点病院ですら、その13%は病理医不在。なんとも驚愕すべきていたらくだ。 その上10年後には大量引退の危機が予測されており、いったいどういうことになるか、日本の医療は実に恐ろしい局面を迎えようとしている。 病理医の仕事は、治療存命中のみに限らず、死後に於いても、治療内容の正否を見極める剖検による臨床病理検討という重要な仕事が残っている。これにより、密室性を払拭できるばかりでなく、将来に向けた質のよい医療の進展が得られる、まさに、病理分野ならではの活躍の真骨頂が、そこにあるのだ。 これまで病理医は地味な存在であったが、平成20年に病理診断科という標榜で、患者の目に直接触れることになった。全国でまだ20施設ほどでしかないが、市中に開業にうってでる病理医も出現、その重要な存在が一般社会に顕在化している。 だが、病理医トータルの戦力不足はいかんともしがたく、喫緊の課題である。
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