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かつて、外科系の医師は、名医であればあるほど患部にはためらわず大きくメスを入れ、病巣に見落としのないよう改め、確実に取除くことを信条とした。患者側もそんな自信に満ちた医師の姿勢を信頼し、全面的に受け入れる暗黙の了解があった。 その後医療は著しく進化し、最近30年間は内視鏡治療を中心とした手術低侵襲化が主流となり、その傾向はますます拍車がかかっている。 例えば、泌尿器科領域でいえば、当初開放手術が万能であったが、尿路結石治療が体外衝撃波治療へと変わり、さらに尿路内視鏡治療へと、あっという間の大変遷ぶりである。 尿路結石治療に於いては、かつて一世を風靡した開放手術のことはもはや教科書に一言も記載されない時代となり、医学生は全くかやの外にある。 ちなみに、新旧の手術内容はそれぞれ全く異なるものであり、今や古き開放手術ではできるだけ結石を破壊せずに取り出す方式であったが、現代の内視鏡手術では、可能な限り破砕して体外に取り出す方法をとる。 さらに、その後登場した腹腔鏡手術では、剥離、切開、縫合など、基本的手術操作のほとんどは、なんと開放手術そのものであり、新たな形式を生みだすこととなっている。 ただ、立会医師への教育上の見地等からすると、開放手術方式では大きく患部が開放されてはいるものの、術野そのものは執刀医以外には背中越しで見えにくい。 その点、腹腔鏡手術ではモニターを介して、周囲の見学者等へも、すべて共通の術野を提供することができる。 最近ではロボット支援手術ダヴィンチが急速に普及しており、本邦では既に百数十台のロボットが稼働している。 その活躍の背景には、まぎれもなくロボットの優越性がある。例えば、尿道再建や神経温存などのデリケートな手術操作技術は実にみごと。その結果、術後の尿禁制や男性機能など機能力アウトカムの確かな改善が得られている。 ただ、こうしてロボット活用の華々しい新時代が始まっても、開放手術が完全に廃れてしまうことはない。拡大手術や再手術などでは、依然として開放手術が第一選択であり続けるとされている。 外科医に対する基本教育から開放手術は永久に消え去ることはないだろう。
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