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慢性疾患というやつは、日常生活では“苦痛”があまり表面にでないだけに、本来は毎日キチンと服用しなければならない薬をつい飲み忘れてみたり、或いは意識的に飲まなかったりするケースが決して少なくない。 そのあげく、検査数値がまた悪化してしまったなどと嘆いたりする。それもその時だけ。殊勝に反省のポーズをとるのだけれども、喉元過ぎれば熱さ忘れる。そのうち、とうとう入院という羽目に。 アメリカの調査ではあるが、高血圧や糖尿病等の慢性疾患でキチンと服薬を守っている割合は平均50%台、つまり2人に1人というお寒い状態。 また、抗うつ薬治療については、最低半年間以上の服薬継続を指示されていても、半分の3か月以内で辞めてしまうのが約40%。半数近くの人が医者のすすめを守れないのである。 ただそれだけで事がまるく収ってくれれば薬剤費も少なくてすむのであるが、実際はそうはいかない。キチンと薬を飲み続けることが、それだけみれば薬剤費がかさむようだけれども長期的視野にたてば逆。病態の悪化が抑えられ、また、合併症の拡がりがなくなり医療費は大幅に軽減できることになるのだ。 まず、糖尿病の場合。服薬遵守率20%未満というズボラ患者では、一人当たり年間医療費が150万円(円換算)もの支出となるが、60%未満に遵守率が上がれば110万円で収まる。更に、80%以上とシッカリ服薬を守れば総支出は60万円で抑えられることになるのだ。 また、うつ病の場合では。もし抗うつ薬治療がドクターの計画通り守られていれば、うつ以外に併発しやすい多くの疾患治療費までも抑えることが明確にされている。抗うつ薬を80%以上正しく服用することが守られれば、他の疾患の服薬遵守率が約2倍良くなることが判明しており、結果、その医療費総額が年間2割も削減されるということである。 こうして、薬を1ドル使うことで糖尿病はその治療費が約7ドル削減される。なお、高コレステロール血症でも約5ドルが、高血圧では4ドルが削減され、極めて効率のよい費用効果が得られる。 だが一方で注意すべきは一部の高齢者医療のケース。山ほど薬をもらい、何かと不調を訴えていた老人が、ある日突然薬を飲むのをやめてみたらすっかり元気になった、という話もある。 薬剤費の扱いに関しては、その表面的な数字をみて多いの少ないのと短絡的な判断をせずに、患者個々、如何に適切な薬物投与が必要かを十分見極めることが大切。冷静沈着な観察的、判断力が必要とされる。
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