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今度は何とか男の子が欲しい、とか、やさしい女の子がいいな、とか、神代の大昔から世の親たるものは総じて、我が子の出産に臨んで男女の生み分けに並々ならぬ関心を払ってきた。 そんな切なる思いに答えるべく、さまざまな生み分け法が次々と登場した。だか、所詮はみな俗説、迷信の類、非科学性の域を脱することができず、いつのまにか自然消滅していった。 そしていま少子化の時代を迎え、男女生み分けの要望はますます強いものとなっている。 時代は進みに進み、とうとうゲノム操作もできる超ミクロ、超高度科学社会に突入した。あくまでも技術的なことだけでいえば、胚操作により男女をお望み次第で生み分けることが可能になったのである。 だが、この分野を実質的に管理総括する日本産科婦人科学会は、胚操作による性別判定後の胚移植は着床前診断法という特殊技術の応用にあたり、これを全面的に不許可としている。そして現実に、その実施者に対しては学会除名という厳しい処断を下している。 男女生み分けの技術としては、他にX精子の特殊な遠心分離法が開発されており、極めて有力な手段として評価されたが、これについても学会は、“安全性”追求の名目で、その使用を禁止扱いとしている。 男女生み分け法として、いま唯一まずまずの有力な手段とされているのは、母体操作に属するものであり、その中心をなすのが“膣内PH調整法”といわれるものである。 男女生み分けの基本戦略としては、精液中に2種類あるX精子とY精子とを、いかにして自由自在に分離操作できるかにかかっている。膣内のPHを計画的に調整し、迎えくる精液中からX精子を選びだし卵子と結合させれば、受精卵の性染色体構成はXXとなり女子誕生につながる。また、Y精子が結合すればXYとなり男子誕生につながることになる。 この膣内PH調整法は、再現性に乏しいという理由で、厳密な学問的評価としては低い。とはいえ、これを長年臨床研究している第一人者の14年間に至る成果をみてみるとなかなかのものである。男子を希望する成功率は81%、女子についても80%と実に立派な好成績をあげている。 男子希望の場合は、膣内をアルカリ性に調整し、女子希望の場合は酸性に整える、という仕組みで、他の条件についても例えば性交渉日や頚管粘液量の調整の生殖生物学的要素を上手に総合的に組み合わせている。順法的生み分け法としては、現在もっとも信頼性が高いといえる。 私の住む横浜の片田舎の駅看板で「男女生分相談」と標榜する広告を2つほど目にしたが、はたしてどこまでどのように相談に応じているのかは不明である。
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