メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
うつ状態の医師
 
   「開業医の4人に1人がうつ状態」
 全国の保険医連合会が、約1年前に発表したアンケート結果だが、こんな状態ではうかうかと安心して診療を受けるのも躊躇される。
 実際、これらの医師は、なんらかの服薬をしていると回答しており、まさに病人。病人が患者の診断・治療をするのだから、なんともはや心もとない限りである。
 うつの裏側には当然の如くストレスがある。保険医のストレスの中で最も多かったのが「経営問題」。実は、その後に別途調査された大都市医師会連絡協のアンケート結果でも、約8割もの医師が、5年前より「収支が悪化し、医業経営について不安を感じる」と答えている。
 長期処方に伴う来院回数の減少、更には度重なる医療費抑制策が、経営に少なからず影響を与えているといえよう。
 もちろん、昔からの地盤を背景にビクともしない医者もまだまだ多数存在する。だが、開業後3年経っても、5年経っても資金がまわらず、休診日にはアルバイトで食いつなぐ医者も少なくない。この世界にも、格差拡大の波がはっきりと押し寄せている。
 その上、医者を医者とも思わぬ無礼千万な患者、いわゆる「モンスター・ペイシェント」なる輩も多数出現して、心やさしき医師を大いに悩ませる。まさに、この困乱する現代社会に、生まれるべくして生まれた怪獣の如く、クレームをつけることを恰も趣味として、縦横無尽に暴れまくられては、如何な聖職者といえどもたまったものではない。
 そこでたまには旅行でも、と思ってもそれもままならない。フランス人医師は年間2か月ものバカンスを楽しみ、他の諸外国でも約1か月の休暇は取得できるところが多いというのに。
 勤務医には当直制の壁がある。一方、開業医には当直はないにしても、長期休暇取得には難題がある。代診を頼みにくいし、その費用も少なくない。それに長期では患者のことも大いに心配になる。
 そこに誇らしくもあり、哀しくもある医師のサガが見え隠れする。
 これほど苦労する医業に従事しているにもかかわらず、「来世、生まれ変わっても医師として働きたい」と、約6割の医師は答える。「自分の子供を医師にさせたい」は、やや下って約4割と微妙。
 金銭的な見返りが少なくなり、また、長期休暇取得もできない、まさに「医は仁術」の精神をもつ。その上更に健康万全な超人こそが、適格な医師本来の資格を有する。

(2009年5月22日掲載)
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医者と患者のトラブル仲介
(2009年6月19日掲載)
◆うつ状態の医師
(2009年5月22日掲載)
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(2009年5月8日掲載)