メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
新語〝ロコモ〟登場の意義
 
   整形外科病棟といえば、かつては手や足をギブスで固定された茶髪の若者たちが大いに幅をきかせていた。内蔵機能はピンピンしているから、みなぎる活力をもてあまして看護婦(当時)からよく叱られていたものである。
 それが今はまるで様変わり。年齢構成が激変し、病室は高齢者で溢れんばかりであり、日本の高齢化進行速度は世界に類を見ない。
 高齢者は転倒すると、大腿骨を骨折、寝たきりに移行することが少なくない。一方、若者の運動障害は単一部位のみに生ずることが多く、また治りも早いので、そこを元に戻してしまえば、簡単に社会復帰が可能だ。
 だが歳をとると、からだ中の運動器も同様にくたびれていき、たとえ大腿骨の骨折を治療し終えても、膝の関節やら頸椎やら別の運動器の具合も悪くなり、二度と立ち上がる機会を逸してしまうことが多い。
 このまま無策で高齢を迎えるようでは、日本総寝たきり社会の到来を招きかねない。キャンペーン「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」にしても、その中間報告(07年)では、1日の歩数はむしろ減少、折角のお声がかりが少しの効果も発揮していない。
 そこで登場したのが「ロコモ」なる新語。ロコモとは、SL(蒸気機関車)のLのこと、力強い移動能力を意味する。
 日本国民はあまりにも運動器の健康に無頓着すぎる。このまま運動器の手入れを怠っていると、その先にQOLの急落、要介護状態のあることを、一日も早く気付かなくてはいけない。
 そこで、この程「ロコモ研究会」が新語を創出、啓蒙にのりだしたというわけである。今や超人気の「メタボ」並みに人々の意識改革につながればと考えたようだ。
 運動器障害のため要介護になる危険度が高くなった状態を「ロコモティブ・シンドローム」と呼ぶ。そうならないよう、そして少しでも先延ばしできるようロコモーショントレーニング(ロコトレ)を2つほど紹介する。
 まずは「開眼片脚立ち」の訓練。
 65才以上では1分以上が目標。最初は手で支えてもよいが、要は鍛えるべき部位をしっかり意識しつつ行うことがポイントとなる。
 次は「スクワット」。しゃがむ訓練で、1度に5~6回、1日に3度以上行うとよい。臀部の筋肉や大腰筋等、体の中心に近い筋肉が鍛えられ、からだの心棒がシャキッとする。

(2011年1月28日掲載)
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(2011年2月11日掲載)
◆新語〝ロコモ〟登場の意義
(2011年1月28日掲載)
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(2011年1月14日掲載)