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うつ病が急増している。99年から05年までの6年間に、うつ病患者が倍増したとの数字が明確に示されている。だが、その背景をつぶさに探ってみると、いろいろと興味深い問題がみえてくる。 なにかと悩み多き大国・アメリカのこれに関しての動向が、日本の実情を極めてよく反映している。 昨今は、精神科疾患の治療件数が増えにふえて、現在最も多く処方されている薬剤は抗うつ薬だという(コロンビア大他の05年まで過去10年間に於けるデータ分析による)。 抗うつ薬の治療割合が、96年には6%弱だったものが、05年には10%強に、そして推定患者数が1300万人から2700万人へとほぼ倍増している。 こうしたうつ激増の背景として、丁度この時期、新規に抗うつ薬が数種類承認、発売され、また、それに伴って臨床ガイドラインが公表されたことなどがあって、抗うつ薬の処方が大きく押し上げられたものと分析されている。 つまり、仮面的うつ状態が積極的に掘り起こされ、セッセとうつ病薬が処方されたものと推測されているのである。 軽いうつ状態の段階では、まだ精神科医に診てもらうことは少なく、圧倒的に一般内科医で処理されるケースが多い。軽いうつ状態は、誰でもいつでも経験する現象といわれ、内科医の判断一つで気軽に抗うつ薬が処方されることが少なくない。 こうしたケースでは、実際、精神科専門医の診断によると、抗うつ薬処方対象としては不適切な症例がすこぶる多いと指摘されている。 つまり、病気でない病気が無理やり作られるという誤った理解が広まったとみられなくもないのである。 アメリカから抗うつ薬等を導入した日本が全く同じような色に染まったとしても何ら不思議はない。 うつ病治療薬が、真に必要とされる患者にのみ使用されるならば、患者数はぐんと減少し、つれて処方数も減って当然である。だが、両者共増え続けている現実はどう理解したらよいのだろうか。 アメリカが今回調査対象にした初期の頃、日本は、自殺者数が年間3万人を超えた。以来、この大台は10年連続しつづけている。 自殺には、その背景にうつの存在が指摘されている。うつ病患者が真に著増しているとするならば、自殺が比例増加してもおかしくない。実際には、なんとか3万人台で抑えられている。 うつ病激増現象が、虚像視される由縁はそんなところにもある。
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