メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
難聴は認知症を進行させる
 
   趣味仲間の大先輩が、最近補聴器を購入した。両耳で50万円ということであったが、聞けば、数万から軽自動車を買えるほどのピンキリの世界だという。
 メガネ屋で誂えたとのことだが、超高齢社会突入を背景に、目の衰え、そして耳の衰え双方を見据えた商法はなかなか鋭い。
 「全米で5人に1人が難聴」
 医学誌の見出しで、アメリカでも耳の遠い人が沢山いることを知った。
 これまでは「米国保健栄養調査機関」が、小児だけ或いは高齢者だけを対象に、局地的に定期的に調査を続けてきたが、今回は、ジョンズホプキンス大学の耳鼻科が中心となり、01年から08年にかけて全米規模で実施された初めての統計学的調査である。
 WHOでは、難聴の定義として「会話に於ける25デシベル以下の音が聴きとれないこと」としているが、この調査で、12才以上の人口の5分の1近くが「意思疎通困難」なほどの難聴状態であることが明らかになった。これはこれまでの有病率予想を2倍も上回っており、関係者は驚きをかくせなかったという。
 片耳、或いは両耳の難聴者が併せて、20・3%も居て、両耳共難聴が確認されたのは12・7%(8人に1人)という。
 最近は話し方が雑で、昔に比べて大変聞きとり難くなっている。本当は生きた声で心のこもった話し方をしてもらいたいのだが、多くは間を置かず早口でシャベッてみたり、文末の言葉が弱く、曖昧な発音になったりと難聴者泣かせの会話が目立つ。
 ついつい、手のひらを耳にかざす“アンテナ動作”が多くなるが、この「掌の補聴効果」は意外に大きなことが判った。音声の聴取にうまく適合する周波数帯に、10~12デシベル程度の増幅をもたらすのだ。例えば、10m先で話す人が、2m半に近づいたと等しくなる改善効果は極めて大きく、両手を両耳にかざせば更に効果的で、15デシベルも聞きやすくなるという。
 もっとも、最近の世の中では、無理して聞きとらなくともよい、或いは聞きたくない話も多く、そのへんは適当に調節すればよいだろう。
 とはいえ、難聴状態になったということは、それが原因で認知機能低下、認知症、身体機能低下等に深く関与してくるといわれる。
 聴こえ難いという現象を、即、命にはからまないからといって、単なる疾患ですませない研究がありがたいことに精力的にすすめられている。

(2012年11月30日掲載)
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患者学向上のすすめ
(2012年12月14日掲載)
◆難聴は認知症を進行させる
(2012年11月30日掲載)
21世紀最大の疾患「血栓症」
(2012年11月5日掲載)