メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
拷問容認の傾向
 
   魅惑的なカリスマ性を発揮するジャック・バウアーの活躍する人気TVドラマ「24」には大変興奮させられた。この主人公を模したお笑いタレントも出現したりして、結構多くの視聴者がエキサイトしたようである。
 特徴的なのは拷問シーン。毎回決まって登場した。
 さすがに、これを看過できない有識者から苦言が出た。ニューヨーク大学のベンドレス医学博士が「拷問が美化され過ぎている」と、有名医学誌に投稿、話題が広がった。
 その懸念表明の背景には、テロの惨劇を味わったアメリカ国民の感情がある。最近の調査でも、ますます拷問支持の傾向が強まっている。
 06年実施のアメリカの世論調査では、拷問容認の割合は36%に留っていたが、08年には44%に増加した。更には、拷問を目的とした他国への引渡し、いわゆる「国家間秘密移送」には、国民の半数を超える支持が寄せられている。
 こうした世論を背景にして、テロ犯等を収容するキューバのグアンタナモ刑務所移設問題が、如何にオバマ大統領肝入りの案件とはいえ、予断を許さぬ状況にある。
 国防のため奮闘するTV主役バウアーの英姿はとにかく魅力的である。自警主義的な正義をふりかざして活躍を続けた「24」の人気をみる限り、一般市民の間に拷問を容認する心理がますます強化されたことは確かだろう。
 一方、まことに唐突なことだったが、最近日本国内の死刑執行の刑場が初めて新聞公開された。絞首刑執行室や刑務官の押す執行ボタンなど、東京拘置場の密室の様子が生々しい。
 話題の千葉前法相は、死刑廃止論者として知られているが、制度の存廃を巡って、国民的論議を呼びかけている。
 内閣府の世論調査では、死刑制度容認派が現状8割を超えているが、今回の情報提供等で変化はみられるのだろうか。
 拷問、或いは死刑問題は、実質的に我々一般市民がどう考えどう対応するかにかかっている。結果、正しい判断ができたかどうかの正否は神のみぞ知るということである。

(2010年11月26日掲載)
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(2010年12月10日掲載)
◆拷問容認の傾向
(2010年11月26日掲載)
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(2010年11月12日掲載)