メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
がんは外来で
 
   がんに対する治療は、歴史は結構古いものの未だにモタモタとして頼りがいがない。抗がん剤は次々と登場するものの副作用ばかりが強くて誠に困ったものだ。世界をリードする製薬メーカーは、あいかわらず抗がん剤開発に凌ぎを削り、がん征圧を目論む。
 そんな中、がん療法に際して入院か外来かの取り組みに関しては、この十年で大きく変貌を遂げている。一昔前はがんの治療といえば入院が当たり前であったが、今では外来で闘病に取り組む姿勢も結構見られるようになっている。
 化学療法となれば、一つの区切りとしてこれまでは時には6カ月にも及ぶ入院を必要とした。「悪性リンパ腫」を例にあげれば、3週間を1クールとして通常6~8クールの抗がん剤投与が続けられるからだ。
 外来治療を可能にした最大の功労者・要因は、なんといっても副作用の制圧にある。最も嫌われていた強烈な催吐作用をみごとに抑えこんだ制吐剤の開発は大変な福音となった。もう20年も前のことになるが、がんセンターに入院した友人を見舞った時の一言が今でも耳を離れない。「もしもあの窓に桟がなかったら、俺まちがいなく飛び降りていた」。それほど化学治療法による嘔吐の苦しさは激しかったのである。
 当時ほとんど治癒の望めない運命に併せて副作用発現の苦しさが、患者の身心を深刻にさいなんだのである。外来治療を可能にしたもう一つ大きな要因としては、白血球低下を回復させるG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)の新登場もある。
 こうしてわざわざ入院しなくとも外来でQOLの管理が可能となった。せわしい近代社会の中にあっては入院をしないですむということは、経済的に余裕のないサラリーマンや家庭の主婦にとって極めて好都合なことである。
 入院費が異常に高く、極力外来で済ませようとするアメリカでは病院近接のホテルがよく利用される。1日入院費7万円が7千円以下で済ませられるのであるからその違いは大変大きい。
 入院では1つのベッドを1人の患者が一定期間専有するが、外来となれば午前・午後・夜間の3交代で3人の患者が点滴を効率よくこなすことができる。日本でもがんセンターや癌研などで、外来治療室に専用のベッドを増設して対応を図っている。
 通常、入院が決まっても1カ月以上待機するケースもよく見られるが、外来で対応することで病状の進展を防ぐことができる。
 がんは未だにスカッと治しにくい難病であるが、こうして細部に工夫をこらして治療成績を少しずつでも向上させるしか今の所道はない。

(2005年8月26日掲載)
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(2005年9月23日掲載)
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(2005年8月26日掲載)
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