メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
居候ストレス
 
   4度目の春を迎えた福島原発被災地。今でも13万人以上の被災者が不便な避難生活を強いられている。近く一部地域で避難指示が解除されるものの、除染作業が遅れにおくれ、未だ多くの市町村で帰還の目途がたっていない。
 長く続く避難生活者の間で、今、通称「エコノミークラス症候群」といわれる深部静脈血栓症が徐々に増加、大変危惧されている。
 この現象は、2004年に発生した新潟県中越地震の際にも見られ、肺塞栓症へと進展、死亡例も報告された厄介な疾患である。
 この時の研究報告では、地震発生1週間後車中泊した人々の約30%に血栓症が認められた。東日本大震災に於いても同様で、甚大な被害を受けた地域ほど血栓症陽性率の高いことが報告されている。
 血栓症は1度罹ると慢性化しやすい。折角無症状になっても、避難生活が安定しないと体内で秘かに再燃し、自覚症状が確認された時点では、既に手遅れということもあり、継続的な管理が必要である。
 震災の2年目に実施された調査では、意外な結果が見られた。震災直後、避難所や浸水地域の自宅で暮らした人々よりも、生活環境がより良好と思われる”親族宅で生活を送った人々”の方が、血栓症陽性率がより高いことが判ったのだ。
 本来、衣食住のすべての環境が避難所より整っているはずの親類宅での生活が、何故最悪の高陽性率を示すことになったのか。
 石巻市が2014年に行った被災者アンケートでは、生活環境別にストレスを感じている割合が、自宅71%、仮設住宅79%、民間賃貸住宅76%、親族宅92%という結果。これで感じるのは、親族宅で生活する被災者は、いわゆる「居候」。つまりは、気兼ね、遠慮に起因するストレスで活動性も低下し、血栓症発生につながりやすくなっていたとみられる。
 一定期間とはいえ安定した生活に切り替ったのだから、覚悟を決めて「お世話になります」とドッシリ腰を据えればいいのだけれど。日本人には、特に、お年寄りにはそれができない。悲しいかな、そういう国民性をもって育った人間だから、何かと遠慮心がでてきてしまうのだ。
 
 仮の生活はいつまでも続けられない。4月という新年度替わりを機に、遂には新たな土地で終のすみかを定める被災者が増えている。
 ふるさとに帰りたくとも帰れない願いを断ち切る辛さ、悔しさは言葉ではどうにも表現しきれない。

(2014年6月6日掲載)
前後の医言放大
ロボット手術と旧式手術共存
(2014年6月20日掲載)
◆居候ストレス
(2014年6月6日掲載)
お風呂でのスキンケアのあり方
(2014年5月23日掲載)