メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
運転能力の低下2題
 
   ◎薬剤の副作用による場合
 日本の四季の移り変わりは、世界的に他に類を見ない豊かな情緒溢れる美しさをみせてくれる。だが、その一方で春のスギを代表として、毎季毎月さまざまな花粉によるアレルギー発症という困った代償を与えられている。
 アレルギー症状をやわらげるには抗ヒスタミン剤の力を借りねばならない。よく効いてくれるが、その裏腹に、ひどい眠気や倦怠感のような鎮静性の副作用を味合わなければならない。
 日常生活にいろいろと厄介な悪影響を及ぼすが、特に生命をもおびやかすリスクは運転上の支障だ。これが原因でしばしば交通事故が発生する。昨年、山形の高速バス運転手が抗ヒスタミン剤入りの総合感冒薬を服用、意識消失により大事故につながった例が記憶に新しい。
 抗ヒスタミン剤の鎮静作用は、人によりウイスキー3~5杯飲用による酩酊状態に相当する場合も。今、飲酒運転撲滅の大運動が展開されている中、抗ヒ剤をはじめとする関連薬剤の服用には格段の配慮が要求される。

 ◎認知症高齢者による場合
 薬物による「認知・判断力の低下」が、自動車運転に危険と判れば、その薬物をのまなければよい。それで安全運転は可能だ。
 だが、認知症高齢者となるとそうはいかない。それでも運転する危険な状態が、社会的医学的問題として、現実に大きな課題となってたちはだかる。
 自動車による死亡事故にかかわった65才以上高齢者の割合は、94年時点では9%にすぎなかったが、10年後04年には16%とはね上がり、その後も年々増加している。
 高齢者の免許保有者はほぼ一千万人を数え、認知症有病率から推測すると、約30万人強が認知症ドライバーの可能性がある。こうして、認知機能の低下を自覚できていない高齢ドライバーが突然高速道路を逆走したりするのである。
 実際、介護家族がその危険を指摘しても、本人がなかなか納得しないケースが多い。自動車の必要度の高い農山村部では、それでズルズルとヒヤヒヤの毎日を過しているのである。
 今のところ、まだ運転を中止させる具体的な判断指針は確立していない。アメリカでは、自動車の代替交通手段等、多面的に検討しているが、世界的高齢者国家の日本からまず模範的な施策を発信して欲しいものである。

(2010年7月23日掲載)
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(2010年8月6日掲載)
◆運転能力の低下2題
(2010年7月23日掲載)
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(2010年7月9日掲載)