メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
「ピーンときた」は真実
 
   「いま何を考えているのか」脳の複雑な回路は、そう簡単には解き明かせない。と思っていたら、実際、脳の解析テクニックはおそろしく進んでいた。
 “記憶”というものは、普通思っているよりはすこぶる大容量収容されているものらしい。
 それは“無意識の記憶”として、時に大きな成果に結びつくことがある。例えば、犯人の顔やテストの正解を思い起こそうとする時、或いは多くの品物の中から何かを選びだそうとする時などに、頭の中では普段意識していない記録が、クルクルとめまぐるしくフル回転して大成果に、ということがしばしばある。
 アメリカ・ノースウエスタン大の心理学教授は、こうした日常生活で発揮される“無意識な記憶”の偉大な働きをみごとに科学的に証明してみせてくれた。
 その上、こんなことまで言いきる。
 「努力して覚えない記憶の方が正確だ」なんてことを。一生懸命、短時間睡眠で暗記ものにチャレンジしている受験生諸君の気持を逆ナデするような発言をこともなげに。
 それは画像認識テストで示され、十分注意を払った時の記憶より、注意をそらされた画像の時の方が、より正答率が高かったからである。
 通常は、注意をそらすと記憶力はダウンするものだが、それほど注意を払っていなくとも視覚系はしっかり働いていて、情報は十分保存されている、ということだ。
 つまり、何かを思い出そうとする時は、自分の自覚している以上に多くのことが思いだせ、それで想像以上に大きな成果に結びつくのだ。
 こうした研究成果は、重度の記憶障害のある健忘症患者が、しばしば強い潜在的記憶を発揮することがある、というこれまでの報告を、あらためて追認したことにもなる。
 また、実生活においては、意識的な記憶のみに頼るべきではなく、直感と創造力を大事にすべきだということを教えてくれる。
 視・聴・嗅・味・触の五感を基にした情報は、信頼性が高く、科学的であることは言うまでもない。だが、その一方で、「第六感」或いは「ファースト・インスピレーション」「勘」といった類の非科学的感覚が、実際は、十分信頼に足る豊富な情報を背景にした科学性に基づいていることを、今回我々は知った。
 要は、ピーンときたら、それに自信をもってのぞんでいいということである。

(2010年4月2日掲載)
前後の医言放大
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(2010年4月16日掲載)
◆「ピーンときた」は真実
(2010年4月2日掲載)
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(2010年3月26日掲載)