メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
疼痛のない在宅医療
 
   長い入院生活で、ある程度病状が落ち着いてくると、「これなら家にいてもなんとかやっていけるかも」と、在宅医療を考えることになる。
 「在宅医療」の定義は、「医師、看護師が、診療計画に基づき、定期的に訪問診療を行うこと」であり、トラブル発生により都度自由に依頼できる「往診」とは、保険上明確に区分、運営されていることをしっかり理解・認識しなければならない。
 最も代表的な例でいえば、がんの闘病生活。最大の問題は、がんにつきものの「がん性疼痛」への対処。これをスムースに在宅管理できるかどうかが全ての鍵を握っている。
 一般に疼痛とはいっても、いつもどうにも我慢のならない痛みばっかりとは限らない。ほとんどが在宅ケアならではのシンプルな疼痛管理で処理できている。
 子どもが転んで「痛い、いたい」と泣いている時、母親が患部に手を当て「痛いのいたいの飛んでいけー」というオマジナイがあるが、こうした家族による「手当て」が、医の原点として在宅医療に於ける疼痛緩和法の最高最大の手段と考えられる。
 それでも、どうしてもおさまらない疼痛もあり、その扱いが極めて厄介だ。
 例えば「一定時間おきの定期服用」と指示された麻薬の扱いで、「少しでも少ない方がいいのでは」と勝手な解釈をしてトラブルことがある。いつもすぐそばで懇切丁寧に教えてくれる入院生活との大きなギャップを感じる瞬間である。
 また、鎮痛剤単味では効果が十分現われないケースでの巧妙な「鎮痛補助剤」の使い方などに精通することは甚だ難しい。
 更に、在宅では急変時緊急に対応できる、いわゆる「レスキュー薬」を2~3種準備しておくことも安心薬として必要なことである。
 がんの痛みの中には、モルヒネなどを大量に使っても副作用ばかりが目立つケースが少なからずあり、これががんに対する最大の恐怖でもある。
 だが、医学の進歩はありがたいもので、最近、服用時の300分の1の使用量で、つまり、最小の副作用で最大の効果の期待できる「脊髄鎮痛法」が開発された。しかも携帯型なので在宅でも応用可能なところがうれしい。
 飲み薬及び点滴では、薬が全身を巡るために副作用が発現しやすいのだが、それをこの新式局所注入法は改良、解決したのである。画期的モルヒネ使用法として大変期待されている。

(2010年2月12日掲載)
前後の医言放大
暴力スポーツ排撃論
(2010年2月26日掲載)
◆疼痛のない在宅医療
(2010年2月12日掲載)
サッカードクターの苦悩
(2010年1月22日掲載)