メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
放射線の体内照射
 
   男が、男だからこそ、年をとるにつれ気になる疾患がある。そう、前立腺肥大であり前立腺がんである。最近はそれがとみに増えているというからなおさらである。
 前立腺がんはいったいどのくらいの頻度で発症するものなのか。男性死体で精密に調べられた病理検査成績がある。デトロイトで事故死した500人余の検体では、年代毎比率的に増加しており、20代から既に1割に認められ、30代で3割、40代4割、50代5割と規則正しい。70代では8割以上もの割合でがん組織が認められる。
 だが、これはあくまでも病理、がんの芽が発見されたということで発症とは別段階。現実の世界では各年代ともはるかに低率におさまっている。ちなみに、死亡率は全体で0・3%にすぎない。
 天寿がんという言葉があるが、がんの発症が発見されても、同時に老衰として天に召されるということであれば、それはそれでよいではないか。体内で悪い芽が育っているかも知れないが、相当進んでこないと自覚症状として感じるものではない。長生きしなければ咲かない花だと開き直って悠然と生き抜くに限る。
 しかし、天命より少々手前であったら、適正な治療に期待せざるを得ない。幸い今では「密封小線源永久挿入法」なる特殊療法が開発されており、大変頼りになる。放射線を体内に封入、がん細胞をチクチクやっつけるという仕組みである。
 日本では3年前実施と目新しいが、欧米では20年の実績がある。世界唯一の被爆国なるが故に、関連法案に縛られ導入が遅れたものである。チタニウム製の微小カプセルに放射性物質を100個程度閉じ込め、前立腺に留置する。
 一般的に見られる放射線療法は、体外から照射するもので、予約日にわざわざ出向く手間がなく、一回体内に埋め込めば、そこから定期的に照射を続けてくれる。
 この治療による成績は、前立腺を全摘手術した時とほぼ同様ということで高く評価されている。しかも手術と違って、体への侵襲はほとんどなく、入院期間もわずか2日間でよい。ただ費用が約100万円とはなはだ高価なのが玉に傷。
 早期発見により、利用者増大を図るなど、更に、行政側の更なる理解により低額化されれば、加齢を重ねる男性にとってはたいへんありがたいことである。

(2007年2月23日掲載)
前後の医言放大
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(2007年3月16日掲載)
◆放射線の体内照射
(2007年2月23日掲載)
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(2007年2月12日掲載)