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今、社会は年金問題で実にかまびすしい限りである。実は、それと極めて似た現象として輸血問題がある。早晩、血液についても不足の事態に陥ることが予想されており、医療関係者はヤキモキしているのである。 急速に進む少子高齢化が、年金及び献血双方の問題を深刻化させている最大の背景であり基本的な隘路となっている。献血する若年層が減少していく反面、輸血を受ける傾向の強い高齢者が増加していく社会情勢では、血液の需給バランスが崩れて当然である。 特に血液の中でも赤血球については、採血後、献血者の回復が極めて緩やかであり、再採血するためには数ヶ月を要する。従って、如何に協力的で積極的な献血者であろうと、年間最大4回の採血が限度である。こうした事情も背景にあり、赤血球製剤に関してはその不足が最も早く問題化するとみられている。 現状の需給予測によれば、10年後には必要量の約84%に、20年後には約67%に落ちこむであろうとされている。 それに、献血に当たっては、肝炎やHIV感染等の危険もからんでおり、輸血患者総数年間123万人中、そうした問題の発生が1480件も報告されている。 B型肝炎ウィルスに関しては、劇症化し死亡する例も数多く知られているし、C型肝炎についても、慢性化して肝硬変、肝癌に進展する危険性が大きく慎重に取り扱わなければならない。 さらには、E型肝炎や西ナイルウィルスの存在も新たな要注意事項として認知されてきているし、昨今急浮上したSARSなど新興ウィルス感染症に対しても厳重な管理が要求される。 幸いなことに、検査法は大幅な改善進歩をみている。とは言っても、感染症や副作用等の問題を完璧に防止するのは至難のわざである。感度を高める検査法の開発には巨額の費用が必要とされるが、幸いなことにそうした心配をしないですむ工夫がある。 「自己輸血」がそれである。安全性も経済性も同時に解決可能な極めて利便性の高い方法が開発されている。既に、その有用性を高く評価し、積極的に取り入れている施設も日増しに増加しており、実際の手術日までに時間的余裕のある整形外科や心臓血管外科、脳外科等では結構普及してきている。 超積極的運営を実践している施設では、輸血量全体の9割以上を自己血で賄うことが可能となっているほどである。 輸血問題では、自己血の活用でなんとかなるかも、という気がしないでもない。しかし年金問題ではそうはいかない。今のところ全く妙案の見い出せない状況にある。自己資金の投入には天地がひっくりかえっても不可能な限度がある。
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