メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
ひたすら痛みに耐える女性
 
   薬局の店頭で鎮痛剤を買っていく人の流れをみていると、ほとんど全て女性といってもいいぐらい極端な偏りがある。
 用途としては、まず頭痛。確かにその発症頻度は、女性が男性の約4倍と圧倒的に多い。
 次に、毎月の定期訪問客・下腹部痛への対応も、女性にとっては実にやっかいこの上ない。念がいったことに、月経時に限らず、排卵期にも、頭痛を併発しやすいときているから辛いったらありやしない。
 20代から50代の、まさに女盛りは女性ホルモンの分泌が最高潮。頭痛も月経痛も、そして排卵痛も、全てこのホルモンによって引き起こされると考えられる。
 月経時には、女性ホルモンの作用で子宮収縮が起こるが、同時に腸をも収縮させるので下痢を招くことが多々ある。月経中にお腹が痛くなったり、便が緩くなったりするのはこのためである。
 頭痛との関連については、女性ホルモンの一つ、卵胞ホルモン・エストロゲンの有する脳血管拡張作用によるものと推定される。
 50代を過ぎ、閉経後の女性が骨粗鬆症等の治療のため、女性ホルモン補充療法を受けることが多いが、その関連で頭痛が起こりやすい。この事実は、頭痛に対する女性ホルモン犯人説を強く裏付けるものである。
 さらには、関節リウマチに伴う手足の痛みについても、女性は男性の4倍の頻度と格別に縁が深い。予後も女性のほうが悪く、まさに泣きっ面にハチといったところ。治療は長びき、その当然の姿として、リウマチ専門病院の男女比は1:10と圧倒的に女性天下だ。
 リウマチに限らず、免疫系の異常が元で発病する病気は女性が絶対的優位。例えば、膠原病の代表・全身性エリテマトーデスでは、男性の約9割というように。
 その根本原因は妊娠システムにあるようだ。非自己である胎児を、自己の体内で育てる、というのはまさに臓器移植状態。拒否反応が起きないように立派にのりきる大事業は実に大変なこと。免疫機能が、生まれつき男性よりも複雑で巧妙に働くよう、女体は仕組まれている。
 これが精密であればあるほど、何らかの細かい影響でも異常事態につながるリスクが当然考えられる。
 出産の時の、あの激痛に耐える苦悶に満ちた表情、そして断末魔的叫びに接する時、男は誰しも「あー女に生まれなくてよかった」とつくづく思う。
 日本女性は多くの疼痛をかいくぐって世界一の長寿を得た。一方、高齢者の自殺は圧倒的に男性が多い。
 日本女性は実に強くたくましい限りだ。

(2008年7月18日掲載)
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(2008年8月8日掲載)
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(2008年7月18日掲載)
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