メディカル・エッセイスト 岸本 由次郎  
 
医言放大 一生30年間の睡眠(12月号)
 
眠りの悪い幼児は思春期が怖い
 
   最近、凶器使用の傷害が思春期世代でもいとも簡単にやってのけられている。中でも、小六少女による仲間の殺害事件には真底驚かされた。
 タイミングよく、アメリカの小児病院で思春期の暴力事件をテーマにした臨床統計がまとめられ発表されたので考えてみたい。
 その中に、「仕返しは男児より女児に多い」というまとめの部分がある。これまで思春期の暴力性を扱った研究では、男子はともかくとして、女子に注目したものがほとんど見当たらなかっただけに、今回は大変注目されている。
 けんかの原因は、男女共「軽視された」とか、「からかわれた」とかの他愛ないものであるが、女子特有の傾向として、以前のけんかをむし返すことが多く、男子よりそれがはっきりと目立っていた、という。つまり「仕返し」をしているのである。さらに、女子では「凶器が使われることが多く、男子より傷害を受ける傾向が明らかに強かった」という。
 そこで問題は、仕返しの気持がむらむらと起ってきた時に、それを事前に予防する手立てをどうするかにある。或いは、不幸にして事後になったとしても、二度と短絡的な暴力に訴えないよう穏便に済ませられないか、という適切な指導法がないかどうかである。
 子どもたちが「頭にきた」といって、すぐに暴力に走ってしまうのは、その背景に「暴力以外の選択肢を何一つ教えられていなかった」という指摘がある。つまり、人はまともな人間に自然な成り行きでなるものではない、という考え方が根本にあるのだ。
 アメリカ・ノースカロライナ州にある矯正プログラムは、「暴力をふるうこと」より、「暴力を思いとどまること」の立派さを徹底して訴えるものだという。それにより、まだ本法を実施して半年ほどしか経過していないが、暴力をふるったとの報告は一件も起きていないという。
 思春期にトラブルを起こすのは幼児期の育て方に問題があったからという研究がある。
 アメリカの研究は、極めて大量の症例、或いは極めて長期間ということで実に感心させられるが、この研究も10年前をあばきだしたものであり、幼児期の「睡眠障害」を突きとめている。小学入学前、睡眠習慣が不良であった子が、思春期になると酒、タバコ、麻薬にはまりやすく、その危険性は普通の子の2倍にもなるという。
 親が子どもといつまでもTVゲームに熱中するなんてことは問題外であるし、子どもが寝たのに、そばでいつまでも親がペチャクチャしゃべり続けているのも誠によろしくない。
 親は子どもに規則的な睡眠習慣をつけさせ、量的にも質的にも十分にして適切な睡眠が確保できるようしっかり配慮すべきである。


(2004年12月10日掲載)
前後の医言放大
脳はスカスカ、でも頭脳明晰
(2004年12月24日掲載)
◆眠りの悪い幼児は思春期が怖い
(2004年12月10日掲載)
テレビ育児症候群
(2004年11月26日掲載)