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せっかく子どもを授かっても、昔は母乳が出ないと大変だった。乳母が見つかれば何も言うことはないが、もらい乳となると苦労が続く。その後、人工乳が登場してどれほど多くの産婦が安堵したことか。 とはいえ、人工乳より母乳の方が母子ともに多くの利点のあることが判明した。例えば新生児致死率の低下とか病気予防、さらには早産児では免疫機能の強化などがある。 最近では、新生児3500例を30年間追跡したところ、母乳育児の期間が長かったケースほど知能指数(IQ)や教育レベル、収入の高いことが明らかにされた。 この調査結果が母乳育児の過熱に拍車をかけることに。中でもアメリカにおける母乳へのこだわりは異常なほど高いものとなった。 テキサス大学のウォルフ准教授は、この現象を次のように分析している。「アメリカでは、ここ5~7年で“完璧な母親”を求める傾向が強まり、母乳で育てないと罪悪感を感じさせる風潮がある」と。 アメリカでの母乳への思い入れは、遡ること100年以上も前から医療機関などによって「母乳バンク」が整備されたことにも見られる。 このバンク制度は、近年、中国、アフリカ諸国などにも広がりを見せ、母親が病気で母乳を与えられなくなったりするケースで、母乳を提供するシステムとなっている。 時代が変わり今では、インターネットで母乳の売買を仲介するサイトや母乳を扱う新興ビジネスなどが次々と誕生している。 ちなみに、母乳の取引価格は人工乳よりも割高で、原油価格以上の高額商品だ。(1オンス=28g、約2$、240円前後) 日本小児科学会は、2008年「母乳の推進は小児科医の責務」と明記したマニフェストを発表しているが、母乳バンクの取組みは欧米よりかなり遅れている。 アメリカでは医療保険改革(オバマケア)が母乳の関心を一層高めた。つまり、授乳中の従業員に、母乳を搾乳する時間と場所の提供を企業に義務付けたのだ。 昨今はオンライン上での母乳取引が世界中に広がり、日本にも複数のサイトが存在する。 当然予測されるリスクとして、感染症や異物混入などが指摘されており、例えば、細菌の増殖が確認されたサンプルが101件中92件もあったとする報告が。母乳の安全性を確保するため、法規制などの対策が急務である。
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