メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
有訴率第1位「腰痛」の対処法
 
   生身の人間として毎日頑張って生きていれば、どこかしこ不良箇所がでてきて当然である。厚労省調査によると、国民の有訴率の第1位は「腰痛」であり、10人に1人がこの悩みを持つれっきとした国民病である。
 腰痛の診断、そして治療を巡っては、少々複雑な問題点が指摘されており、膨大な患者数が背景にあることを考えると、しっかりと正しい認識をもつことが必要である。
 “痛い”という当面の辛さ故に、そしてMRI検査という高度な普及態勢が敷かれているために、ついつい早期検査の行われる傾向が現場では強く現れる。
 超優秀な検査機器がごく僅かな病変を映しだすと、痛みとの関連性追及もそこそこに手術への道へまっしぐらということにもなりやすい。
 最近、アメリカにおけるMRI普及率も日本同様急上昇し、人口100万人当たり2000年は7.6台であったが、06年には26.6台と約3倍も増えた。1台2億円という投資効率を高めるためもあり、検査実施率は高まり、それに比例して手術数も大幅に増大している。
 発症から1か月以内に検査されるケースが圧倒的に多かったが、実際には1か月以内にほとんどが自然軽快してしまうという現実がある。従って、それを反映して臨床ガイドラインでは、発症後1か月以内のMRI検査は行わない指導がとられているのだが・・・。
 実際、腰痛と器質的な病変との相関係数はかなり小さく、厳密に扱えば、手術対象となるケースは極めて少なくなるというのだ。従って、手術率の上昇にも関らず、患者のより良い転帰につながっていないというデータが発表されるのも至極当然のことといえよう。
 つまり、腰痛は器質以外の要因がかなり多く、うつを始めとする精神医学的問題がより多くより強く関与しているのである。
 検査のタイミングが早過ぎ、しかも手術による恩恵も得られにくいとなると、まさに泣きっ面にハチという惨さ。
 こうなると我々には、賢い患者としての強い防衛能力を持つことが必要とされる。過剰な検査・診療に注意し、1つしかない命の保全のために、強い自覚と認識をもって対応しなければならない。

(2010年3月12日掲載)
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うつ病が増えているようだが
(2010年3月26日掲載)
◆有訴率第1位「腰痛」の対処法
(2010年3月12日掲載)
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(2010年2月26日掲載)