メディカル・エッセイスト 岸本由次郎  
 
医言放大
 
男女の産み分け
 
   「今度は何とか男の子が欲しい」或いは、「やさしい女の子が」と、神代の時代から世の親たちは、時には男女の産み分けに並々ならぬ関心を払う。
 そんな切なる思いに応えるべく、これまでさまざまな産み分け法が登場している。だが所詮はみな俗説、迷信の類、非科学性の域を超えることはできず、自然消滅していった。
 時代は進み、とうとうゲノムを自在に操作する超ミクロ、超高度な科学社会に突入、あくまでもテクニック上からだけでいえば、胚操作(着床前診断)により男女を自在に産み分けることが可能となった。
 ただ受精卵の診断は、命の選別につながるとして、日本ではその技術使用は、重い遺伝病等に対象が限られており、当然のことながら重い倫理的課題を抱えている。
 それでも技術的に可能となった目的を、なんとかかなえてもらおうと、法的に身動きのとれない日本を脱出し、海外に活路を見い出そうとするカップルが少なからずいる。
 今、その人気の中心になっているのがタイだ。日本人カップルは年間約30組もいて、全世界からは、年間約600件の着床前診断を取り扱う盛況ぶりである。
 費用が150万円かかるとはいえ、男女産み分けの需要は極めて多く、ちなみに、日本人の依頼者のほとんどは、既に複数の男児のいるカップルで、大半は次は女児を希望するケースが多いという。
 中国には、男児を望む伝統的な傾向があり、女児が出生した場合は、人為的に淘汰をしてみたり、育児放棄するケースが少なからず発生している。
 80年代以降は超音波検査が登場、胎児の性別が判るようになり、女児の人工妊娠中絶が内内に実施されたりした。
 地域によっては男女比が140:100の超アンバランスな情況になり、さすがに政府は諸政策をうち、ようやく一定の効果が得られるようになった。
 韓国に於いても、同様な異常事態を経験したことがあり、男女の産み分け技術を厳格に規制、中絶を違法に実施していた何人ものドクターが免許を剥奪されたりして、なんとか男女比を本来の姿に戻しつつある。
 医学の知識、技術はとどまることなく突き進んでいるが、全てそのまま医療に応用できるとは限らない。ほとんどが「やれること」として人類に貢献できているが、中には倫理的等の問題で「やれないこと」もでてくる。両者のせめぎあいは永久に続く。

(2013年7月26日掲載)
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(2013年8月23日掲載)
◆男女の産み分け
(2013年7月26日掲載)
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(2013年7月12日掲載)