薬事ニュース社
オピニオン

>>>「痛みの10年」<<<
 米国は今「痛みの10年」の終盤に差し掛かっている――こう言われると、「サブプライムローン問題に端を発する経済危機は昨年だったはず」と首をかしげる人も多いだろうか?医療・医薬品業界人には愚問だったか?
 1998年から2カ年にわたる全米調査によると、米国においては、程度の高い慢性痛に悩む患者が成人人ロの9%を上回っており、無効な治療や何人もの医師を巡り歩くことなどによる医療資源の浪費、痛みのために就労困難などによる社会的損失は年間約650億ドル(約8兆円:1ドル123円換算)に上ると推計された。この結果を受け、アメリカ議会は21世紀の最初の10年を「痛みの10年(Decade of Pain Control and Research)」とする宣言を採択し、当時のビル・クリントン大統領が署名。痛みの評価や治療基準の作成、痛みを見直す国民週間の設定など、総合的な対策を講じた。米国での研究(1996年)によると、適切な「痛み」治療を行なえば、個人的医療費は58%の節約となると報告されている。
 患者のことを英語で「Patient」と言うが、語源は「苦しみに耐える」という意味を持つラテン語だ。実はつい最近知人が骨折した。しかも持病のために服用している医薬品との相互作用の問題で鎮痛薬が服用できないという。健康なときは、痛みについて考えることは少ない。ましてや、痛みがあるのに事情があって鎮痛剤を服用できない人がいることにまでは思いが至らなかった。
 遅ればせながら日本でも、慢性疼痛対策の充実に向けた検討が始まった。患者の苦しみが少しでも軽くなるよう、痛みへの対策が進むことを祈る。
(2009年10月23日掲載)