薬事ニュース社
オピニオン

>>>郷里は遠くなりにけり<<<
 「めばちこができたんですか?」――妻が放ったこのひと言により、同僚達との楽しいランチタイムの空気が一変したという。首を傾げたり互いに目を合わせたりと反応は様々だが、誰もが彼女の言葉に動揺している。しかし、1人がつぶやいた言葉に事態は急展開を見せる。「そういえば、関西の人は"ものもらい"のことを"めばちこ"って言うんですよね」――そして皆も合点がいったと言わんばかりに頷きながら、彼女を好奇の目で見つめたそうだ。
 関西人である私や妻からすれば「ものもらいってなんやねん」と、声を大にして突っ込みをいれたくなるが、地元を離れて暮らしてみると、ローカルルールとは不思議なものだと感じる場面に出会う。そして時には関西限定のルールによって、思わぬ形で目立ってしまうことがある。
 ご存知の方もいるかもしれないが、"めばちこ"や"ものもらい"は瞼が炎症を起こす麦粒腫の俗称である。地域によっては"めいぼ"などと呼ぶこともあるようだが、全国的には"ものもらい"が多く占める中、関西になると圧倒的に"めばちこ"が増える。他にも、某ハンバーガーチェーン店の呼び方からエスカレーターの立ち位置まで、関西限定のルールには様々な場面に存在する。最近は慣れてきたものの、地元を出て間もない頃はよく戸惑ったものだ。全国共通のルールがある中、関西だけで通用する文化がなぜあるのか?東京への対抗意識などと片付けてしまうのは、短絡的で卑屈な気もするので、とりあえず独創的な地元愛ということにでもしておこう。
 しかし関西人同士でも意見が分かれる時がある。果たして豚汁は"ぶたじる"か"とんじる"か。「どちらでもいいではないか」と心の奥では思いながらも、なぜかお互いに譲れない不毛な議論は未だ結論が見えそうにない。
(2013年3月18日掲載)